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天間荘の三姉妹のSTAYGOLDぴあ映画生活のレビュー・感想・評価

天間荘の三姉妹(2022年製作の映画)
3.9
たんぽぽ
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JR東日本150周年パスで東北新幹線に乗り、東北を巡った。次作の戦国物のロケハンも兼ねて。丁度、全国旅行支援とかぶったため、各地で宿が取れず、まだ余裕があった仙台を起点として、青森、山形、岩手、宮城を巡った。

中でも宮城だ。ゆづの凱旋パレードのころに一度だけ訪れ、石巻の小学校で首を垂れた。あれ以来の来訪になるが、きっかけの一つは本作である。この内容で、のんが出ている。それだけで理由となる。

私事ではあるが、あの年の6月に二人目の長女が、この世界の片隅に降りてきてくれた。二人で相談し「天音」と名付けた。そらに還ったひとたちへの想いも込めて。

そうして、本作。この仕事しているのに、スカイハイのスピンオフであることを知らなかった。全くダメダメである。

カントクは北村龍平。諸々、破天荒な印象があるが、こういうしっかりした背骨の物語もうまい。これだけで安心できる。

どこまでも青い海や懐かしい温泉旅館。とくに凝ってはいないけれど地場の美味しそうな料理。美しい風景と癒しの日常が淡々と紡がれるが、しかし、それこそが残酷な日常なのだ。

行く末を決めること。今はもう「そこには無い」魂に見護られながら。その意味はこの「世界」を観た、それぞれの感性に委ねられる。こんなお話があってもいい。感性はそれぞれだ。答えは一つでは無い。

天馬荘の三姉妹。三女役の、のん。
良くも悪くも、いつもの「のん」である。
クリクリした子供みたいな澄んだ真っ黒な瞳が魅力的なのは変わらない。だけど、11年経って少女だった彼女も時折大人の女性の憂いを魅せつける。現実の世界では、時は流れるのである。仕事の幅も増えて良きことだ。あゝ、イカン、お父さん目線になっている^^;

この三姉妹はキャスティングが良い。

次女の門脇麦は、蓮っ葉で一番俗っぽくて、狭間に在る虚いの世界でも、煙草もふかすし、オトコとも付き合う。でも、そのいろが門脇麦の持つ光をさらに強くする。変えの効かない光。本気の性根。やっぱり、このコは魅力的だ。

更に驚いたのは長女役の大島優子だ。彼女はこんなにも女優向きだったのか。世話焼きの任務を背負い、当てにならないオカンの代わりに宿を回す。だけど、温泉で見せた、か細い背中が彼女の隠せないせつなさを物語る。こころを見せてしまった…。

だから、もう一度言う。
妹たちに比べて、ひどく痩せた肩のライン。
小さ過ぎる影。
それが今回の大島優子の気骨だと思う。
作品に合っている。
大勢とパジャマで戯れていたころには見えなかった光。
諦めない魂に、やはり時代は全てを変えてゆく。

三田佳子が演じた虚いの狭間に長逗留してる文句言いのばあちゃんも、ヒロインたちとしっかり絡んでいい味を出してくれました。こう言う存在は欠かせない。いぶし銀の光。

身につまされたのは、のんを置いて居なくなった父親か。この情けないけど、たぶん優しいのだろうおっさんを、酷くくたびれた永瀬正敏が演じる。この存在感と言ったら。逃げられた女房の寺島しのぶも、こう言うガチャガチャした役が上手い。酒漬けの姿が似合いすぎである。

一言だけ経験者として突っ込むなら、のんは母親が違うのだから三女ではなく長女のハズである。役所で出生届に次女と書いて、お父さん、お母さんが違うと長女ですよ、と突っ込まれた。本作では、なぜに三女なのだろう。謎だ。まー、いいや。

イズコを演じた柴咲コウ。彼女はこのスタイルの映画では欠かせない存在だ。出しゃばらず目立ちすぎず、しっかりとその存在を演じてくれたと思う。

ちょっと長く書きすぎてしまった。でもそれほどに惹かれたということ。正直、かかっていた楽天地シネマ錦糸町では休日にもかかわらず客の入りは本当に芳しくなかった。早々に上映が切られたのは、色々と理由があるのだろう。未だにのんに立ちはだかる醜くくだらない契約関係のオキテ。この令和の世の中で、昭和システムかよ、と感じる。マジでしょっぱ過ぎる。

だけど、きっと。
こういう物語を届け続けることこそが大切なことであると信じている。

そう。
いつだって答えは 遥か彼方にある
それが映画なのだから。

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