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ウエスト・サイド物語のWILDatHEARTのレビュー・感想・評価

ウエスト・サイド物語(1961年製作の映画)
5.0
『オリジナルの凄さ』


スピルバーグ監督によるリメイク作「ウエスト・サイド・ストーリー」を観て間もないということで、折角なので二つを比較してレビューしてみる。

リメイク版「ウエスト・サイド・ストーリー」は、躍動感溢れるカメラワークによるスペクタクル映像とアクション映画を観ているかの如くエキサイティングなダンスや闘争のシーンが印象的であり娯楽作品として一級品であったが、一方でキャラクターの描き込みには不満が残り、この物語の登場人物達に共感を覚えるまでには至らなかった。

その点、1961年に制作されたこの「ウエスト・サイド物語」は違和感なく物語に没入出来る工夫が凝らされていてリメイク版よりも優れていたと言えるだろう。

大きな特徴として役者達の会話にラップ的なリズムがあり、歌曲にスムーズに移行出来る仕掛けとなっている。
それを象徴的に表すのが名曲「アメリカ」における男女の韻を踏んだリリックの応酬であり、女達のアメリカ礼賛に男達がツッコミを入れるという言わばボケとツッコミのリズムはこのシーン以外にも映画の随所で見られ、ラップバトルからのミュージカル歌曲という一連の流れをそこかしこで楽しむことが出来る。

更に言えばこのラップバトルの様なリズミカルな会話によってそれぞれの登場人物に生き生きとしたキャラクターが吹き込まれ、人物の背景を鮮やかに描出することに成功していた。
「クラプキ巡査」等のミュージカルシーンが楽しいのは、こうしたキャラクター描写があってこそだろう。


スピルバーグ版ではトニーとマリアの恋のスピードについていけない問題があるが、端的にトニーもマリアもキャラクター造形を複雑にし過ぎたのではないか。
本作品でのトニーは、楽天的で一途でロマンティストのアメリカ青年として描かれていて一目惚れの恋に突っ走る姿に爽やかさを感じられるし、世間知らずなマリアの母親の様な包容力(もちろん聖母マリアのイメージからのネーミングであると推測される)と芯の強さもこの恋に説得力を与えていた。


全体を通して感じることは、スピルバーグのリメイク版には、ユーモアが決定的に不足していたということである。
この物語は最悪の悲劇に向かってひた走る暗い陰影を伴うドラマではあるが、だからこそ結末に至るまでにユーモアを描いて登場人物達への愛着を観衆に植え付ける必要があったのではないか。
リメイク版はリアリズムを追求するあまり、この映画の主題がぼやけてしまった感がある。


敵対する集団の出身者同士の恋は、異なる人種の融合という夢でもある。この映画で描かれるトニーとマリアのあまりに真っ直ぐで無邪気な情愛は、見果てぬ夢が一瞬叶うのではないかというロマンを我々に抱かせてくれた。

映画を観ることは夢を見ることであり、ロマンや希望こそが映画を観る理由である。

改めて、本作「ウエスト・サイド物語」が見せてくれた美しい夢の意味を痛感させられた。


↓この映画からインスパイアされたと思われるサンタナのヒット曲☆
https://youtu.be/jMmGUTqJ8dQ?si=1cYl2-VxbizjVpSR
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