中

遠いところの中のレビュー・感想・評価

遠いところ(2022年製作の映画)
5.0
1回目 20230710
2回目 20240130

アオイが抱える(問題未熟さ・覚悟のなさ・認識の甘さ)は、アオイの自己責任として処理されるべきのか、社会の問題として捉えられるべきなのか。

アオイの愛らしさと明るさが大好きやけど前に観たときほど魅力的じゃない。
それは抜け出せるはずの地獄に身を置き続けてるから?
ミオも言ってたけどマサヤの言動は愛じゃないねんな。

「普通が分からん」って言ってるアオイが客観的により良い判断をするのは難しいよなって思いながら観てた。
だから最後まで堕ち続けたのは納得感があるんやけど、その最悪な状況とは対照的に笑いながらケンゴを掲げる姿が残酷やった。
縁を切るのって難しいよな。好きな人なら特に。

取り調べのとき警察に正論でまくし立てられて、アオイはふざけるしかなかった。
「じゃあどうせえっちゅうねん」って感情が溢れて最後にはキレた。
アオイのおばあちゃんも似てるんやけど、寄り添うような姿勢で画一的な助言されても何の役にも立たんよな。ただの自己顕示欲でやっぱりそこには愛がない。

アオイの世界でミオは唯一愛があった。
けどアオイに対して明確な道を示すことはなくて、結果的には自分と比較して自己肯定感を下げることにつながってたように思う。ミオのせいでアオイは自分自身がみっともなく感じて堕ちるのが加速したんかもしれん。堕ちていく過程で、もうどうにでもなれって感覚が多少あったと思う。

義母に土下座して謝られても、ミオにウリ止めろって言われても、その言葉がアオイにとってなんの役に立ったんか。アオイがみじめな気持ちになっただけやん。

周りを頼れへん人ってプライドが高いんやと思うけど、アオイは頼る術を知らんって感じやった。
児童相談員はこの世界に少ない頼れる大人で、「お子さんのことで何か不安なことないね? 元気ね? 大丈夫か? また来るね」ってあたたかい言葉を送ってた。
アオイが探してた答えのひとつを相談員たちは持ってるのにうまく「言葉にできひん」。だから伝わらへん。
むしろアオイは心配されて怒っててドツボにハマってるようやった。

アオイはずっと何も分かってない少女のままで、苦しみに耐えるしかない現実が訳分からんまま辛かったと思う。
ミオの葬式で語りかけてた「ミオ、どうしたらええんよ」っていう言葉が痛々しかった。
アオイは終始「どうしたらええんよ」状態で、それが続くと搾取されて堕ちていくのは当然やんな。
これを自己責任として処理される社会はやっぱりおかしいわ。あかん。

ラストシーン、アオイはたぶん死ぬ。
社会が悪いとか個人が悪いとか、単純な問題に落とし込めるわけじゃない。世界はもっと複合的やから。
それに、結局は自分のことは自分で幸せにするしかない。
もっと言うと別に幸せになる義務はない。だからアオイのことを想って他人が極端に悲観的になるのは、それはそれで失礼なような気もする。地獄から抜けたいなら自分を変えるべきで、そのためには環境を変えるのが近道で、何も変えへんままやと同じ世界で落ちていくだけ。
こういう考え方はたぶん強い人の価値観で、そうじゃない人にも寄り添える社会になればええなと漠然と思うけど、ほんな理想が叶う世界ならとっくに戦争なんかなくなってて、そうじゃないからそのほかの些細な争いも世界中で起きてる。

俺は、俺の周りの小さな悲痛を和らげて、喜びを大きくできる人になれればなと思う。
中