MasateruAiki

遠いところのMasateruAikiのレビュー・感想・評価

遠いところ(2022年製作の映画)
4.7
きっと日本中で起こっている問題と思うが、なぜこんなに心が揺さぶられるのか、きっと本土の人間から見た沖縄の開放的で綺麗なイメージと現実を生きる少女たちのあまりに過酷な日常のギャップが大きすぎて受け入れられないのだなと思った。
光が強い分、闇も深く、狭く苦しい閉塞感しかない日常の中、逃げることもできず、逃げ方も分からず、ただ耐えて生きる。

沖縄でシングルマザーの支援をしている上間陽子さんの著書にある「私たちは生まれた時から、清潔にされ、なでられ、いたわられ成長する。だから身体は、そのひとの存在が祝福された記憶をとどめている。その身体が押さえつけられ、殴られ、懇願しても泣き叫んでもやまぬ状況、それが暴力であり、暴力を受けるということは、そのひとが自分を大切に思う気持ちを徹底的に破壊してしまう」という一節を思い出した。

見放され、虐げられ、搾取されても、前を向いて生きようとする一人の女性の尊厳を奪う話だと思った。
耳障りの良い知事の政見放送も、正論しか言わない警察も、物のように扱う夜の世界の男性も、誰一人、一人の尊厳ある人間として彼女を見ていない。
福祉が「大丈夫?頼ってね?」と言っても頼れない、頼り方をしらないのだ。

平日でも昼間から酒を飲み、仕事に行かず、子どもをちゃんと育てない。「酔っぱらっていないお父さんを見たことがない」という話も聞いたことがある。
学校では教育は軽視され、ちゃんと勉強をしている子は馬鹿にされると聞いたことがある。そんな環境に嫌気がさした子は本土の大学に行って二度と戻ってこないと聞いたこともある。

家庭環境と教育の荒廃は、まっとうな育児や経済環境にはつながらず貧困を生み、愛され方や頼り方を知らない子どもをつくり、その子たちがまた大人になって同じような状況を生み出す負の連鎖になっていく。

ちゃんとしない大人、ちゃんとしない社会にもみくちゃにされ、他に生き方を知らない主人公のような女性が一人でも救われ、自分らしく愛されて生きることができる社会が1秒でも早く訪れることを切に願うとともに、自分ができることを考えたいと思う。
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