よどるふ

窓辺にてのよどるふのレビュー・感想・評価

窓辺にて(2022年製作の映画)
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不倫というインモラルな現場(“事実”というよりまさに“現場”)をかなりの頻度で見ることになるにも関わらず、観ているこちらの心持ちがこんなにも穏やかなのはなぜなのか。「こんなの間違ってる」と観客である自分が言い出すのは少し違うような気さえする。

状況が状況なだけに、不意に空気がピンと張り詰める瞬間もあるにはあるのだが、それ以上に可笑しさやとぼけた感じ……ひとことで言ってしまえば“ユーモア”が全編において横溢しているので、こんないつ崩れるか分からない人間模様を楽しんでいられるのだろう。

序盤における「文学賞の授賞式で取材に来ている記者が作者に対してトンチンカンな質問をする」シーンの解像度には思わず笑ってしまって、これはなにか実際にあった授賞式の様子を参考にしているんじゃないかと思った。それに比べると、“文学作家”観には素朴な印象を受けたかな。

以下余談。ナルシストっぽい発言になってしまうのだが、事実なので書いておくと、本作を鑑賞中、この映画を心地よく観ている自分を俯瞰的に捉える瞬間が何回かあって、そんな“映画を楽しんでいる自分”のことを「良いな」と感じる体験をした。この原因について少し考えてみたい。

今泉力哉監督の作品を映画館で観るのは『街の上で』に続いて2作目なのだが、『街の上で』を観ている間も同じようなことを感じていた。作中人物たちへ愛おしさが募ると同時に「自分が映画館で映画を観ている時間」も愛おしく感じる感覚があったのだ。それは一体なんなのか。

自分がスクリーンを通して見つめる先には、作中人物たちの“生活”がある。それを見ながら、「自分にだって、いま“映画を観に映画館に来ている”という“生活”がある」ことを思い出すのだ。

作中人物たちの“生活”と、自分のそれを無意識に同列に並べることに気付く。だからこそ、作中人物向けている“愛おしいと思う感情”は、自分自身にも向いているのだ。これはとても幸福なことだと思う。映画を観ている間、自分を好きになれるのだから。
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