ヨーク

アメリカン・カーネイジのヨークのネタバレレビュー・内容・結末

アメリカン・カーネイジ(2022年製作の映画)
3.4

このレビューはネタバレを含みます

カリコレ3本目。
ちょっとびっくりしてしまったのだが、あらすじ紹介をざっと見た限りではまぁカリコレや未体験ゾーンにありがちな低予算なホラーなんだろうなー、くらいに思っていたのだが、映画の冒頭がなにやら予想以上に社会派なオープニングから始まって、え!? そういう映画なの!? と思ってしまった。まさか超真面目な志の高い映画なのか? とか思いながら観ていたのだが、まぁ結論から言うとバカ映画でしたね。終盤明らかになる設定がバカすぎてズッコケそうになったよ。もうほんとバカ。何回言うんだよって思われそうだけど本当にバカみたいなネタの映画だからもう一回この映画はバカですって言っておく。というわけで『アメリカン・カーネイジ』はバカ映画でした。
まぁバカバカ言っててもどんな映画か分からないと思うのであらすじを説明すると、主人公は多分メキシコからやってきた不法移民の二世で本人はうだつの上がらないハンバーガーチェーンのバイトなのだが優秀な妹がコロンビア大学に合格してめでたいところから映画は始まる。これで妹が将来良い職に就ければ移民として苦労した母親にも楽させてやれるってなもんだぜ! と喜ぶ兄妹だが、ちょうど同じタイミングでモロにドナルド・トランプがモデルと思われる州知事は緊急事態を宣言し異例の行政命令を出したのである。いわく、不法移民はアメリカを蝕んでいるのでその子供も含めて問答無用で拘束して国外退去にするとのこと。妹の大学合格パーティーを開いていたところにその執行部隊がやってきて一家は拘束されてしまう。このまま国外退去になるかと思った主人公だが、知り合いの弁護士の話によるととある老人ホームで奉仕活動に従事すれば国外退去は免除されるのだという。そして主人公は選択の余地もなくその老人ホームへと向かうのだがそのホームには恐ろしい秘密が…というお話ですね。
このあらすじだけなら社会派ともB級バカ映画とも取れない感じだと思うが、実際のニュース映像から引用されてるオープニングでのアメリカの病理の説明の仕方(元々移民の国のくせに今は移民を排斥してる、とか)やそれを受けて始まった序盤の主人公たち移民への理不尽な差別の描写が結構頑張っていたのでもしかしてちゃんと移民問題を描くつもりなのか!? と思ってしまったんですよね。
まぁ主たるメインの舞台となる老人ホームに移ってからは移民の問題の描写は冒頭から比べると薄まって何やら秘密がありそうな不気味な施設の中でのホラー展開になっていくのだが、そこでも一応基調として主人公たちはいくらでも代わりの効くド底辺労働者として扱われるし、その施設のルールを破ったり脱走しようとすると(ありがちだが発信機みたいなのを足首に巻かれて行動範囲を制限される)屈強な施設の職員がやってきてどこかへと連れ去られてしまう、という移民の労働者を人とも思わないところは描かれてはいる。だが映画のメインは緩やかにだが確実に社会派な部分からB級ホラー展開へと変わっていくのである。
契機としては中盤辺りにあくまでも高級な老人ホームという設定なのだがそこの利用者であるおじいちゃんが心停止したはずなのに急に動き出すという王道ホラー展開があるのだが、そこでの死体であるはずのおじいちゃんが繰り出す動きというのがどう見ても『エクソシスト』の例のアレなのである。あ、なんか如何にもなバカ映画っぽくなってきたな、と思ってしまうがそこからの老人ホームの謎が明かされていく展開は凄かったですよ。
この感想文はネタバレ有りにしているので遠慮なしに書くが、なんとこの老人ホームは集めた不法移民をトランプみたいな州知事が経営するハンバーガーチェーンで使うお肉にするための施設だったのである!! ビックリ!! マジかよ!! 今さら80年代とかに流行ったハンバーガーチェーンの都市伝説ネタかよ!! ミミズバーガーならぬ人肉バーガーか! 八仙飯店的なアレですか!? という感じで序盤の社会派な移民云々の感じは何だったんだよ…となってしまうわけである…。
いやー、これはなんか腰砕けたよね。バカすぎるでしょ、そのネタ。もしかしたら監督や脚本の人は移民問題は移民問題として真面目な題材として選んだのかもしれないが、オチというかネタが人肉バーガーみたいなお話しだったらむしろそれは逆効果でしかないだろうと思いますよ。なので最初におっ!? と思ったような社会派感は中盤以降影も形もなくなってしまうのだが、別にB級映画だからダメだということはない。むしろそのバカっぽさが露になってからの方がB級なジャンクフード的美味しさが出てきて(ハンバーガーだけに)面白かったとさえ言えるだろう。そういう意味では作品の雰囲気の落差というのを上手くギャップとして演出できている作品ではあるんですよね。それはB級映画の手練手管としては中々のものだと思いますよ。
なので実は結構好きなバカ映画ではあるんだけど、まぁ上記したようなギャップがいいのだという向きもあろうが本筋に入るまでの展開が遅すぎてかったるい映画であった部分もある。繰り返し書いてるように序盤の移民排斥描写は中々のもので緊張感もあるのだが、老人ホームに移ってから終盤のネタバレシーンまではダラダラしたどうでもいいシーンが続くんですよね。そこはシンプルにイマイチだったな。クソ映画感があって良いとも言えるのだが、スパイ云々の件とか完全にどうでもいいだろ! ていうかどうせ肉にするなら移民組にスパイを送り込む意味がないだろ!
まぁでもそういう細かい部分はどうでもよくなるだけの脱力パワーがあったのでB級映画としては中々のものではないですかね。俺は結構好きですよ。
あと最後のちょっと頑張った感があるゴア描写は好き。これは低予算映画で常に作り手が悩むことだと思うが、見せ場のシーンを序盤に持ってくるか後半に持ってくるかというのがあってどっちも一長一短だと思うのだが(無論、全編面白いのが一番望ましいが…)本作は少なくともゴア描写という点ではラストだけだったんだけど、序盤の社会派っぽい作りの見せ方が上手いので途中まではどういう展開になるのか読みにくかったのが良かったのだと思う。中盤はだるかったがラストにしっかりゴア描写があったから終わりよければ的な感じで満足しちゃうしね。もちろんラストのテンションの高さが全編にあればもっと良かったのだが…。
まぁそんな感じでしたね。正直普通のB級映画だと思うけど中々観せ方が上手かったなという印象でした。そんなに面白くはなかったけど好きですね。なんかあわよくば続編狙ってる感じの強欲さも好きです。
しかしカリコレ2本連続で移民ものだったな…。別にいいけど。
ヨーク

ヨーク