CANACO

ザ・メニューのCANACOのレビュー・感想・評価

ザ・メニュー(2022年製作の映画)
3.2
2022年公開の、マーク・マイロッド監督作品。マイロッド氏はドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』(2011-19)、『メディア王 華麗なる一族』(2018-)などを手掛けた人。脚本はセス・リースとウィル・トレイシーが担当。

密室サスペンスと勘違いして鑑賞してしまったが、ホラー要素の強いグルメ風刺ブラックコメディだった。ウィル・トレイシー氏が、実際にノルウェーの孤島のレストランに訪問したときに感じた、何時間も本土に戻れない不安が創作のベースになっているという。

美食を追究するがあまりエゴと重圧で自我を病んでしまった天才“怪物”シェフが、美食家を気取った富裕層の“俗物”たちに、1人1250ドル(17万円前後)の、二度と体験できないフルコースを提供する物語。
選民意識が高い、裕福な有名人たちはみな『裸の王様』で、彼らが受ける仕打ちはなかなか残酷。裏の顔や無知をどんどん暴露され、貶められていく。皮肉たっぷり。個人的には“フーディ”ぶるタイラーはホント◯◯で、絶対付き合いたくないな。

現実にも、閉店後のフレンチ店から、大勢のコックが見送りする中、悠々と退勤する王様のようなシェフを見かけたり、冗談のようにミニマムな分子ガストロノミーを見たりする。敬意を感じつつも、大金を払ってここの料理を有り難がって頂いたら負けでは……という思いがよぎる。
それに似た違和感を口に出すのがアニャ・テイラー=ジョイ演じる庶民代表・マーゴで、不条理だけど多少のカタルシスは得られるかも。

爆竹のような派手な演出を何発も仕込んであり、かなり驚く。しかし招待客らがあまりにも酷い目に遭うので、納得できるかと聞かれたらできない。映画レビューを書くことだって料理の評論と同じだなと考えてしまい、少ししんどくなった。チーズバーガーが猛烈に食べたくなるように作られた洗脳映画ととらえるのが楽しい。

□メモ
シェフのジュリアン・スローヴィクを演じるのは『レッド・ドラゴン』でも重要な役を演じたレイフ・ファインズで、本当に上手い。ホールを仕切るエルサを演じたホン・チャウの存在もよかった。この二人の静かで超強い圧が「ええええ〜(これマジのやつなんだ〜)」という恐怖を与えてよかったと思う。
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