ももすけ

カラオケ行こ!のももすけのレビュー・感想・評価

カラオケ行こ!(2024年製作の映画)
4.8
原作漫画のファンだけど、あの空気感が実写で出るのか?と半信半疑で見に行ったが、杞憂だった。
以下内容















斎藤潤くんのための映画だ!
若くキラキラして見えるけどその実苦みに満ちている10代。時に割れガラスのように鋭い、時に温い泥の中のような閉塞的な、二度とない時間。
斎藤潤という若い俳優のその尊い時間を、閉じ込めたような映画だ。

斎藤潤くん。
福山雅治がメジャーデビュー前に「ほんの5グラム」で、不遜で傷つきやすい少年を演じたときのような佇まいを感じた。
きっと、人気者になるだろう。
演技も上手い。

主人公の聡実くんが、初めて成田と一緒にカラオケに行ったシーンで、はじめガチガチに緊張しながら、成田が歌い始めたとき、ふっと肩から力が抜けて体が緩み、それから徐にメニューを取る。
成田の歌が聡実くんの興味を少しだけ引いて、なおかつ、二人が「歌」という同じ土俵に乗ってしまったのだなとわかる。
逃げ出すこともできたかもしれないが、同じ土俵で勝負できる確信を得て、聡実くんはメニューを取り、チャーハンを注文したのだ。
そういう関係性の瞬間的な変化を、繊細な空気感で演じている。

原作を含め、この作品自体の評価が非常に難しいと感じてしまうのは、「ヤクザ」という存在と、事理弁識能力が未完成なはずの中学生にブラザーフッドが生まれることを善しとしてしまってよいのか、という点で、それがあるために、私の中では、ファンタジーだと思いつつ、かなり居心地が悪くはなっている。


「歌には愛が必要よ」と臆面なく宣って、「お花畑」と中学生に笑われる顧問教師や、シャケの皮を流れるように剥がして父の茶碗に供する母とか、暗い部室で見る名作映画とか、波風といえばせいぜいが、自分の悩みに気づかずに責めてくる後輩とのイザコザくらい。
そんなゆるい聡実くんの日常の中に、突如激しい怒号や、ダッシュボードに転がる指が割り込んでくる。生まれた子に「狂児」と名付ける親、カラオケ大会で最下位に入れ墨を彫る親分が存在するという異世界の裂け目に、聡実くんを引きずり込もうとする。

最も衝撃的だったのは、ヤクザに絡まれた聡実くんを、成田が爆発的な暴力で助け出すシーンだ。
それは暴力を、より激しい暴力で叩き潰す、聡実くんが住む世界の対極にある世界で、そのグロテスクな裂け目に聡実くんが取り込まれていくようにしか見えず、助けてくれた成田に対し、恐怖しか感じない。(綾野剛の凶暴性)

そういう根本的な筋立ての危うさのようなものを感じつつも、波瀾万丈の物語があるわけでもないのに、引き込まれて目が離せない、そんな映画だったんだ。

私の成田のイメージは、年齢が違うと思いつつも、堤真一だった。綾野剛はこれまでの役柄から危なさが漂いすぎてるんだけど、それは単なる私のイメージ。

いろいろ思うところはあれど、面白かった…
ももすけ

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