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カラオケ行こ!のRのネタバレレビュー・内容・結末

カラオケ行こ!(2024年製作の映画)
4.1

このレビューはネタバレを含みます

映画館で。

2024年の日本の作品。

監督は「天然コケッコー」の山下敦弘。

あらすじ

中学校で合唱部の部長を務める岡聡実(齋藤潤「Phantom Pain」)はある日突然、見知らぬヤクザの成田狂児(綾野剛「花腐し」)からカラオケに誘われる。狂児の組長が主催するカラオケ大会で最下位になった者に待ち受ける恐怖の罰ゲームを免れるため、どうしても歌が上手くならなければならないという狂児のために、歌のレッスンをすることになった聡実は嫌々ながら歌唱指導を引き受けることになるのだが、カラオケを通じて次第に狂児と親しくなっていく。

元々、漫画家の和山やまさんが描いた原作コミックをある日書店で見つけて、漫画家も内容もよく知らないのに面白そうだなと、ジャケ買いして読んだらめっちゃ面白くて、後々映画化される!しかも、綾野剛主演で!ということで前々から楽しみにしていて、公開3日目にしてようやく鑑賞しました!

結論から言うと…いやぁなんつーか今作の全てが「尊過ぎる」!!めちゃくちゃハートフルで面白い作品でした!!

お話はあらすじの通り、あまりない「カラオケ」を主題にした内容。映画におけるカラオケって映画の一場面では、特に文化が盛んなここ日本では見られるエンタメだけど、それを一本の映画として見せるのがまず面白い。

ちなみに俺も昔はめちゃくちゃ行ってたなー。飲み会後のカラオケとか、昔遊んでた友だちとかとよく行ってて、その度に邦楽ロックのマニアックな曲とかみんなよく知らないのに自己満で歌ってた泣

つーか、つくづくカラオケって、狭い部屋の中、喋ったりしながら、人前で(ヒトカラもあるけど)歌いたい曲をただ歌うだけなのに、なんでこんなに胸がときめいて楽しく感じてしまうんだろう。

で、今作はそんな「カラオケ」を題材に合唱コンクールを偶然見たヤクザが自分の組で開催されるカラオケ大会の最下位を回避するために合唱コンクールに出ていた見ず知らずの中学生にコーチをお願いするっていう本当にただそれだけの恐ろしく小さなお話なんだけど、この「ヤクザ×中学生」という本来なら違う世界に生きるもの同士の触れ合いが非常に尊い!!

祭林組、若頭補佐のヤクザ、成田狂児を演じるのは綾野剛!!綾野剛でヤクザといえば「ヤクザと家族 The Family」なんだけど、それ以外でも昨年公開された韓国映画のリメイクの「最後まで行く」とか「日本で一番悪い奴ら」とか「新宿スワン」二部作だとかヤクザそのものではないにしても切長の目つきの悪さを活かしたグレーラインの役柄を演じることも多い、個人的に大好きな役者さんなんだけど、まぁ本作ではその魅力が爆発!!教授自体は物腰穏やかで人好きのする感じではあるんだけど、冒頭の雨のシーンで濡れて透けて見える背中にはびっしりと和柄の刺青が入っていたり、普段の黒でビシッと決めたスーツ姿ではその抜群のプロポーションの感じもあって、明らかにカタギじゃない。まぁ、ぶっちゃけ原作漫画の狂児とは顔立ち自体はタイプは異なるんだけど、それでも狂児に通じる見た目と内面のギャップから匂い立つ圧倒的「色気」が凄いんだわ。カラオケ(劇中では「カラオケ天国」という架空のお店なのに、看板以外は内面含めて、完全にカラオケ好き馴染みの店「シダックス」笑笑)でも初っ端からパーソナルスペース度外視で聡実君の側に座って人懐っこくにこやかに話しかけたり、かと思えば、中学校前で出待ちして、聡美君の個性豊かな傘をバッと差して詰め寄る相合傘シーンにキュンとしたり、車中の何気ないシーンでも遠くからダブルピースで茶目っ気を見せたり、聡美君の青春模様をフロントガラスに顎を乗せてニヤニヤと見つめたりとこれは聡実君じゃなくてもコロッといってまうわ!しかも、舞台は大阪だからネイティブな大阪弁の破壊力!!下手したら、綾野剛史上最高のアクトと言えるキャラクターなのかも。

そして、そんな狂児のカラオケコーチを半ば強引に請け負うことになる中学生、聡実君役は新星、齋藤潤。数千人のオーディションから勝ち抜いた逸材ながら、髪型は七三ヘアーで縁なしメガネと「和山テイスト」そのまんまの漫画から抜け出たような「普通感」が凄い。ただ、よく見ると顔立ち自体は非常に透明感のある男前で、もうこの時点で何年か後にはメンノンかなんかのスナップショットとかでモデルをやってそうな美少年でもあるんだけど、やはり中学生というまだ何者にもなりきれてない年齢とあってか、どことなく中性的な感じも見れる。

そんな彼はやはり、コミュ力お化けの狂児との関係性でいうと「受け」の演技が絶妙で、初めは急に「カラオケ行こ。」と凄まれて、嫌々ながらカラオケに行くことになるんだけど、「なんで、僕はここにいるんだ…」というビビり状態から、初めて狂児の「紅」の歌声を聴いた瞬間、すぐにその場を出ていけるように膝に置いていたリュックを置いて、なんとはなしにフードメニューを開いてみたり、オレンジジュースを飲みながらサビの絶叫に驚きながらただただ見つめたりと逃げ出したい心境から少しだけ心を開きかける感じが特に秀逸。そっから、出待ちシーンで傘を差された時のちょっとキュンとする表情だったり、髪をクシャクシャッとされて戸惑ったりと、スンッとしたその表情といい、狂児といるとなんとなく似た容姿もあって「年の離れた兄弟感」はあるんだけど、そこには微かな原作者和山やまが漫画に興味を持つきっかけとなった「BL」の香りが微かに、だが確かに溢れている。

そういう意味でもカラオケでの狂児と聡実君のソファの位置関係に「距離感」が現れていて、初めから距離感近い狂児に対して聡実君は初対面時は引いているんだけど、そこからテーブルを向かい合わせにしてお互い作業していたり、逆に聡実君の方から距離を詰めて「こんな曲どうですか?」と提案したりと、やはりこういうところで「関係性の微妙な変化」を表す山下監督の手腕が光っていた。

もうだから、俺自身37のオッサンで、ショタコンでもないし、BLも微塵も興味がわからないけど、まぁー観てる間中キュンキュンしっぱなし!!いやぁ、もう本当に尊い関係性だなぁ。

ただ、そんな微かなBLだけがキモではなく、ちゃんとコメディとしても笑える場面が多々あるのも本作の魅力。

それが特に顕著なのは大会に備えて、狂児に続いて、我も我もとカラオケ指南を受けに来る仲間のヤクザたちが集うカラオケシーンなんだけど、ヤクザものをえんじているのが橋本じゅん(「おまえの罪を自白しろ」)、やべきょうすけ(「キングダム 運命の炎」)、「湘南乃風」のRED RICE(「胸が鳴るのは君のせい」)、そしてチャンス大城(「電エースカオス」)といったコワモテの面々なんだけど、そのコワモテヤクザが歌声を披露するたびに「ビブラートのクセが強い」「声が汚い」「うるさい」「カス」とどんだけ肝が据わってんだよと辛辣にヤクザたちを一刀両断していく様がめちゃくちゃ笑った!!このシーンでは会場にいるお客さんも大体みんな爆笑していて、久しぶりに劇場全体が笑いに包まれてる感じがまた嬉しくてちょっと泣けたなぁ。

そして、主人公の聡実君が中学生とあってまだ何者にもなりきれていない「モラトリアム」=青春要素も実に良い!聡実君自体中学3年と卒業が迫る中で成長の一端「変声期」を前にそれまでのソプラノとしての高音が上手く出せないことに思い悩んでいるんだけど、そんなことは知らずに「なんで真面目にやらないんですか!」とただただ真正面から「合唱」に取り組んでいるからこそ、その姿が許せない後輩の和田君(後聖人、この子のまた純粋な感じがすごく良く出ていて愛すべきキャラ!!)と聡実君の変化を知ってか知らずか「まあまあ」と宥める副部長、中川さん(八木美樹)との三角関係、そしてそれをニヤついて見つめる狂児とマジで青春の煌めきに溢れてて悶え死ぬ!!

あと合唱部じゃないけど、「映画を見る部」の栗山君(井澤徹)とのシーンなんかもこんな部があったら毎日入り浸るわってくらいのヤング「桐島部活辞めるってよ」感もまた良かった。

顧問のももちゃん役の芳根京子(「Arc」)や副顧問の人、お父さんお母さん役の坂井真紀(「MY(K)NIGHT マイ・ナイト」)、宮崎吐夢(「静かなるドン 後編」)なんかも決して邪魔をしない範囲での絶妙なバランスも良かった。

そして、そんな何気ないだけどかけがえのない学校生活と狂児との非日常な日々の間で徐々にだが、確実に距離を深めていく2人なんだけど、聡実君は合唱祭、狂児はカラオケ大会とお互いの「決戦の日」、異変は起こる。ソロパート補欠の和田君との兼ね合いもうまくつかないまま、バスで出かける途中、カラオケ店前で目撃したのは見覚えのある狂児の車、その車は粉々に大破しており、近くには救急車に布を被せられて、血だらけの腕がブランと垂れ下がったまま担架で運ばれる要救助者の姿。その姿を見て、不吉な予感を覚えた聡実君は合唱祭をほっぽり出して狂児がいるはずのカラオケ大会のスナックに向かうんだけど、そこには練習よりも更に数多くのヤクザに混じった狂児の姿はいない…。

満を辞して登場の組長役の北村一輝(「翔んで埼玉〜琵琶湖より愛を込めて〜」)に狂児の所在を聞くも「死んだ」との答えにショックを受ける聡実君を慮らないばかりか、それでもなお平然とカラオケを続行するヤクザたちの姿にそれまでヤクザに対してビビりっぱなしだった聡実君が遂に激昂して「お前ら全員狂児のいる地獄に落ちろ」と言い放つシーンは常人なら絶対にビビり散らかしてその場にいられないだろうにただただ狂児のことを想い、その心情をぶち撒ける聡実君の姿にグッとくる。

そして、悲しみを胸にその場を後にする聡実君に組長が凄みを効かせて「狂児への鎮魂歌にお前も歌ってけ」とマイクを渡され、歌うは狂児との想い出の曲、X JAPAN(X)による「紅」!!!!!

それまで合唱に紛れて、決してソロパートでは聴くことができなかった聡実君の歌うその曲は、出だしは流石の上手さを感じられるものの、度重なるサビの高音パートでは、やはり変声期前で上手く声が出ないのか、喉を片手で押さえ、マイクを握りしめながら必死に歌っていて、すごく辛そうに見える。ただ、それでも亡き狂児との想い出を思い浮かべながら歌うその姿は聡実君にとって狂児は出会いはわずかながらも大切な人だったんだな…とこちらにヒシヒシと伝わってくるような、本当に、本当にステキな歌唱でただただ胸を打つ名シーン。もう、隣のおばさんもグスグス泣き出すもんだから、やっぱ俺も堪えきれなくて泣いちゃったよね。

ただ、そこで実は無事だったことが発覚した狂児も現れ、「やっぱ紅だよな!」と朗らかに平然と聡実君に話しかける姿に茫然として、正気にかえり、思わず平手打ちしちゃう聡実君なんだけど、その表情はやっぱりホッとした表情でギャラリーのヤクザたちに持て囃されながらも肩を組んで和かに笑う2人の姿は最後のその瞬間まで不思議だけど、いい関係性だなぁと思わされる。

そして、その日から数ヶ月後、想い出深い学校も卒業を迎え、祭林組やスナックのあったアーケード街は取り壊しが決まり、狂児とも大会から後は音信不通の状態になってしまい、聡実君の束の間の非日常は終わりを告げるというちょっぴり儚いラスト。

聡実君ほどの得難い経験はないかもしれないけど、誰しもが訪れる「青春の終わり」。ただ、それでもいつでも思い返せば、常に想い出はそこに「在る」。過ぎ去っていく日々はビデオテープのように巻き戻すことはできないけれども、何年か後、狂児と聡実君がまた「カラオケ」を通じて再会できたように、誰かとまたどこかで繋がり、道は続いていく。

狂児と聡実君の関係性に胸をときめかせつつ、そんな人と人との出会いと、再会の喜びを噛み締める秀作でした。
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