となりの

カラオケ行こ!のとなりののレビュー・感想・評価

カラオケ行こ!(2024年製作の映画)
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丁寧な映画化で、とてもよかった。

コメディではあるものの、過剰な演出はなく、適度な間としゃべりでもって笑うことができ、原作に特有のテンポ感が出ていたように思う。
何度も繰り返され、その度ごとに聡実くんはこれを最後にと思っただろう、「カラオケ行こ」の言葉が、次第にニュアンスを変えていく過程はとてもよかった。

ともあれ、なにより、狂児が狂児をやっており、聡実くんが聡実くんをやっているのが素晴らしい。
また、さいごの歌唱シーンは、結末を知っていても、その歌声のはかなさには心打たれた。
ひとつの青春であり、その不可逆性ときらめきが結晶化したようなシーンである。

この点で、映画を見る部の存在は大きい。巻き戻すことができない、一度きりの上映とは、なんともにくい。不可逆性と、反復不可能性。それゆえに、あの結末は、狂児と聡実くんのその後を暗示しているようである。

また、古典映画をみてツッコミを入れる聡実くんと、かれの古典的な青春劇の一部を見る狂児と、二人が親交を深める様子を見るわれわれの入れ子的重層化は、われわれが見ているものがフィクションであることを強く意識させるし、聡実くんが狂児に向けて言い放つ言葉もまたわれわれの視線を問いただすものである。
(『ファミレス行こ。』を知っているわれわれの見方にこそ向けられているようにも思える)
(とはいえ、『自転車泥棒』などの作品の位置づけは分からなかったのだが…)

それから、聡実くんの家族関係の描写や、合唱部での部活描写が多く挿入されていたのはとてもよかった。
聡実くんがちゃんとみんなに愛されていること、それがかえって年頃の気難しさを際立たせていることは、脚本の上手さだと感じた。
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