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感染列島のりのレビュー・感想・評価

感染列島(2008年製作の映画)
2.1
本作は、未知のウィルス(通称:ブレイン)が、日本で大流行(エピデミック)し、発生源とされる地区を「ロックダウン」する話である。なんともまあ、時流に乗っている。演技が棒な点、多数の登場人物に焦点を当てているため、散漫かつ冗長になっているが、それを差し引けば楽しめる。とりわけ、医療崩壊や院内感染の描写が凄まじい。

本作と現状との相違点の中で気になったのが、ウィルスの性質とバッシングの形態についてである。
本作のウィルス(ブレイン)は致死率が異常に高い、かつ発症後から症状悪化までの速度も早い。きちんとウィルスについて学んだことはないが、例えば、『銃・病原菌・鉄』を記したジャレド・ダイアモンドは以下のように述べる。「基本的に、病原菌も、われわれ人間と同様、自然淘汰の産物なのである。(中略)病原菌にとって、自分の子孫をばらまくという行為は、どれくらい多くの人間につぎからつぎへと感染できるかという数学的な問題である」(p.364)
つまり、ウィルスにとって宿主を早急に死に至らしめることは、自己増殖に不利に働く。むしろ、ウィルスが進んで自殺しにいっているようなものである。見方を変えれば、ブレインは常態的に「オーバーシュート」を発生させている。そのため、宿主が1人死んだとて、種全体で考えれば遜色はないのかもしれない。


2点目に気になったのは「バッシングの形態」について。主に、マス・メディアがその機能を担っている。それもそのはず、本作が上映されたのが2008年、つまり、大衆批判社会(インターネット上で、誰もがいつでもどこでも、それこそ、「おはようからおやすみまで」、SNSで批判することができる社会)が形成されていないから。
他人を即座に批判できるアイテム:iPhoneが発売されたのが2007年。いつ頃、大衆化したかは不明だが、とにかく2008年にはそれがなかった。もちろん、インターネット自体は1995年からある。しかし、基本的に自宅のパソコンからアクセスするのが普通?だったし、携帯(ガラケー)からのそれはお金がかかったから、あまり使用している人がいなかった感がある。つまり、我々は即座に他者を「ぶっ叩く」アイテムを所有していなかったのである。だから、本作のバッシングの形態は、「上から」のそれが多い。
翻って、現状を見ると、ツイッターランドでの批判が散見される。別に、批判することは悪くはないが、過剰な他者批判。例えば、卒業旅行に行き、COVID-19に罹患し、かつそれを集団に感染させた(クラスター)人への異常なバッシングなど。特に、個人名の特定や嫌がらせ。正義の仮面を被りたいのは分かるが、叩いても何も変わらない。あるのは、自分の鬱憤を晴らせること、不安感を一時的に忘却できることくらい。だから、そんなに叩きたい人は、ゲームセンターにでも行って太鼓かワニを叩くべき。
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