社会のダストダス

FALL/フォールの社会のダストダスのレビュー・感想・評価

FALL/フォール(2022年製作の映画)
4.3
<鉄塔>三三三ヽ(´◔‿ゝ◔`)ノ┌┛ウワアアアアアアアアアア~[地面] ぐちゃ…!

ある意味では行って帰ってくるだけの映画と、シチュエーションスリラーとの融合。スリラー好きとしては地味に楽しみにしていた作品。梯子だけ付いた錆びた鉄塔、それがひたすら600メートルというスカイツリー級の高さまで伸びている。まず前提として、なぜそんな場所に行くことになったのかという理由が気になって仕方のない設定。

ロッククライム中に夫のダンを落下事故で無くし亡くし、一年以上塞ぎ込むベッキー(グレース・フルトン)、そんなベッキーを立ち直らせるために親友のハンター(ヴァージニア・ガードナー)が老朽化により取り壊しが決まった600メートルのテレビ塔へのクライミングを持ち掛ける。ベッキーは夫の遺灰を頂上から撒き新たな一歩を踏み出すため挑戦を決意する。

な、なんと…そんな重い理由が。もっとB級映画にありがちな「そこに鉄塔があるからだZE☆」とか「回転寿司の動画みたいにバズりてぇ…」みたいな、おバカなノリの映画だと思っていた。そんな理由だったら落下して派手に死んでも別に胸が痛まなかったが、これでは固唾をのんで彼女たちの挑戦を見守らざるを得ないというもの。

主演はグレース・フルトン、『アナベル』の2作目に確か出ていた、観ていないが『シャザム』にも出ているらしい。序盤の夫を失い飲んだくれている姿、中盤のパニック状態、そして終盤の覚醒。亡き夫と親友そして父親との関係を内省し、こんな設定の映画なのに大きな成長を遂げていく。

親友役にヴァージニア・ガードナー、『スターフィッシュ』という私のお気に入りの変な映画の主演の人。6万人のフォロワーがいるSNSアカウントに動画投稿をしており、今回のそり立つ塔を計画する。落下事故がトラウマの友人のためにスカイツリーに登るという強引なサイコセラピーを施す、つまり元凶。

行きはよいよい(でもないが)、帰りは恐い。はっきり言ってあらすじでストーリー全部ネタバレみたいな映画だけどハラハラした、髪の毛全部抜けるかと思った。鼻の頭と手のひらとワキにも汗をかいた。もしかしたらズボンの中でもアクシデントが起こっていたかもしれない。尺の大半は足場面積の無いシーンなので高所恐怖症の方への拷問映画、美女を下から眺めるシーンが多いのでローアングラーの方にはご褒美映画

主人公はWWEファン、推しはザ・ロック、“ストーンコールド“スティーブ・オースティン、カクタスジャック、バティスタとのこと。このチョイスから推察するにジョン・シナにブーイングを浴びせる層のファンだと思われる。今はハリウッド映画で活躍している人も多いが、2000年ごろがピークだったザ・ロックやストーンコールドは明らかに主人公の世代ではない気がする。しかもカクタスジャックが好きな女子なんて存在するのか、これはもしかして最後は落下して粉々に砕け散る伏線なんじゃないかと不安視していたら、まさかの…

内容はあらすじまんまの映画だけど、これだけシンプルなストーリーにスリラーとサバイバル、セラピー(=拷問)やローアングラーへのご褒美も盛り込まれていて、しかも思ったより3倍くらい真面目な映画だった。これ仮にIMAXとか3Dで観たら吐く人とか出てきそう、終盤も極限状態の表現としてお見事だったし、これは新たなスリラーの傑作になっていって欲しい。