Jun潤

レジェンド&バタフライのJun潤のレビュー・感想・評価

レジェンド&バタフライ(2023年製作の映画)
3.4
2023.01.27

大友啓史監督×古沢良太脚本×木村拓哉×綾瀬はるか。
何やら気合いの入っている大作邦画。
主演2人の演技に不安はありませんが、個人的に大友監督は苦手、しかし古沢脚本となると食指はブルンブルンに動く。
現在放送中の大河ドラマ『どうする家康』も同じ古沢脚本で、主人公は違うものの時代が同じであちらの信長は岡田准一。
歴史考証で既に何やら色々とある模様ですが、あちらの信長もまぁ雰囲気はとても良き。
今作の信長はこれまでの信長たちと差別化されるのか、それとも違う姿を見せるのか。

短期で見栄っ張り、粗暴な立ち振る舞いの織田信長は、父・信秀と斎藤道三の政略により、濃姫と結婚することとなる。
濃姫は当時の女性にしては気が強く才色兼備で、初夜には信長を一方的にのしてしまう。
互いにいがみ合う信長と濃姫だったが、斎藤道三の討ち死に、桶狭間の戦いなどを通して2人の絆は強く深くなっていく。
しかし時代が流れ、信長は人ではなく魔王として君臨し、濃姫は病床に伏す、
果たして2人を待つ運命とはー。

うーん、、豪華キャストや総制作費20億投じてこれ、かぁ……。
序盤こそ古沢脚本節の効いた小気味の良いセリフの応酬や間の取り方があっただけに、後半はそれが鳴りを潜め、歴史の流れを描いていったような感じ。
加えて、信長と濃姫が共に過ごした日々も、字幕に書かれていたように年を経ていたはずなのに、場面場面で描かれる2人の関係性に変化は無し。
要所要所で信長と濃姫の関係が歴史の流れに関わることがあるものの、どうしても有名な事件のみを描いていて、伝記の範疇から出ていなかった印象。

それもそのはず、『信長協奏曲』で帰蝶の名前は知っていましたが、鑑賞後に調べてみると濃姫に関する資料はほとんど残っておらず、出自はおろか信長と結婚したかどうかも定かではないとのこと。
なるほどそう思うと桶狭間の戦いの裏側には濃姫の存在があったかもしれないという、戦国フィクション的なものとして楽しめたのかもしれない。
しかしそういった信長と濃姫の連携プレイも後半表出せず、戦国フィクションというよりは恋愛時代劇といった感じ。

時代劇もの全般に言える話ですが、大河ドラマですら一年かけて偉人の一生を描けていないのに、それを2時間ほどの映画で描くというのは無理な話で、ならば史実を忠実に描くかフィクションやifストーリーのどちらかに振って欲しかったところを、今作ではそれが足りていなかったと思います。

何より疑問なのは、東映70周年記念作で、豪華なキャストとスタッフを揃えたのに、信長の妻を使ってフェミニズムを描いたのか。
東映の70年だったらもっとこう……あるでしょ!!

登場人物も、主要な偉人たちは大体出てきましたが、時代背景を全く考慮せずにいると、信長を始めとして行動原理に納得が行かず、信長と濃姫以外の人物に関しては舞台装置に徹していた印象です。
まさか斎藤工はあの一瞬の家康のために太ったのか……?
というか同じ脚本家の家康なのに全然キャラが違うというのは、今作が解釈通りか解釈違いなのか、『どうする家康』の今後が楽しみになったのか微妙なところ。

演技については、綾瀬はるか=天然みたいな印象はやはり抜けきらないので、今作の気の強い女性を演じさせると、パブリックイメージを覆すだけの実力は足りていなかったのかなと。
キムタクはいつものキムタクでしたが、魔王になったあたりのキムタクは良いキムタクでした。
今作については中谷美紀と伊藤英明の完成度が素晴らしく高く、主演2人の演技が喰われていた印象が強めです。

終盤の展開については、せっかくifストーリーや異説としてハッピーエンドにできそうだったところを、一般的な史実に則ったビターエンドに着地させたのはなんでかな?と疑問符。

童だった信長は濃姫によって武将に、歴史の流れから魔王に、そして野望よりも愛を取って1人の女性を愛する1人の男として命を燃やした。
同じような偉人が、いなかったかもしれないし、いたかもしれない。
Jun潤

Jun潤