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グッドバイ、バッドマガジンズのnetfilmsのレビュー・感想・評価

3.6

 オシャレなサブカル雑誌が大好きな詩織(杏花)は念願かなって都内の出版社に就職。しかし、そこはオシャレのカケラもないどころか卑猥な写真と猥雑な言葉が飛び交う男性向け成人雑誌の編集部だった。彼女が憧れた雑誌は程なく廃刊となり、サブカル気取った出版社は否応なく成人雑誌路線へ舵を切る。こんなはずじゃなかったという彼女の叫びが聞こえてきそうだ。理想とかけ離れた職場に最初こそテンションがダダ下がりの詩織だったが、女性編集長の澤木や女性ライターのハル(架乃ゆら)など、女性が「エロ」を追求している姿に刺激を受け成人雑誌に対して興味を持ち始める。しかし、そんな中、編集部で取り扱っていた雑誌で「とんでもないミス」が発覚。それを境に共に激務を戦ってきた同僚の編集者たちが次々と退社。オーバーワークで心も体も疲弊しきった詩織だったが、さらに追い打ちをかけるように衝撃的な事実を知ることになる。出版不況のあおりを受け、どこの出版社も景気の良い話など聞かないが、2013年、東京オリンピックの誘致が決定。2019年大手コンビニが外国人観光客への配慮として成人雑誌の取り扱いを中止。コンビニが最後の販売網であり命綱だった成人雑誌の編集部は死と呼ばれるのに等しい最終宣告を受ける。

 私はてっきり『ハケンアニメ!』のようなサブカル・サバイバル・ムービーだと仮定して観始めたのだが、いやはやそんな甘い世界などどこにもない。アニメの世界と成人雑誌の世界とではデッドラインがそもそも違うのだ。返本率の高さに編集部と営業部は摩擦が生じ、そもそもエロ本は斜陽産業なのに上司は売れなかった理由を無理矢理あら捜しし、誰かに責任を押し付ける。サブカル誌が絶滅の危機に瀕する出版業界では新卒など取れる余裕はなく、丸投げされた社員たちは幾日も完徹でスケジュールに間に合わせるしかない。左遷された副編集長は内規でクビに出来ないため、モザイクをかける仕事を延々やらせる羽目になり(あの突然の絶叫が末期的だ)、主人公はハメられる女の裸をずっとシュレッダーにかけ続ける。まさに発狂寸前の職場がここにはある。『MONDAYS/このタイムループ、上司に気づかせないと終わらない』の劣悪な職場よりも数倍おぞましい職場の姿で、消え行く衰退産業の現在地を現すようで寒くなった。才能があった人間が次々に独立し、お人好しの致命的なミスで衰退に拍車が掛かる。男たちの勃起不全と不感症を一手に引き受けるヤマダユウスケのモテ男ぶりが清々しいが、その顔には疲労の色がこびりつく。奈落の果てに真っ逆さまに堕ちて行くなら楽なのに、全員が少しずつ気付かないレベルで毎日堕ちて行く様は正直言って心臓に悪い。もはや小さい爪痕も残せず、幸せなSEXも出来ない編集部の姿に日本の未来がオーバー・ラップする。
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