正直映画の形式的な部分は個人的な好みから程遠く、終始動き続けるカメラには酔いこそしなかったものの見ているのが苦痛ではあった。引き合いに出されるのはダルデンヌ兄弟だが、むしろこの不快感はドグマなんとかを採用していた時のラースフォントリアー作品に近いか…願わくばメインはフィックスで、時に手持ちというメリハリのあるバージョンも目にしたかった。
ただその不愉快さを大幅にカバーしていたのが俳優陣で、宮沢氷魚の過剰なデフォルメをしない(それは劇中における彼の社会に対する距離とも通じる)喋り方や仕草はすごくナチュラルだし、鈴木亮平のいわゆる"新宿二丁目でよく飛び交っていそうな喋り方"をこれまた絶妙なバランスで演じるので相当準備を重ねたんだろうなと思わせる。涙を堪えようとしても溢れ出てしまうところとか本当に息を呑んだ。
また観た人なら誰もが驚かずにはいられない阿川佐和子の自然すぎる演技。唯一この作品のドキュメンタリー風手法とマッチしていたのが鈴木亮平が家に遊びに行く場面である。あそこは本当に素晴らしい。そして、観客の誰もが阿川佐和子に心を奪われていくと同時に物語の中心もそちらに寄っていく。これは脚本の構成力によるものだろう。「エゴイスト」というタイトルそのままに、劇中で誰がわがままを言うのか、その点に着目して再見するのも面白いかもしれない。
松永監督が師事する橋口亮輔監督の「二十才の微熱」などに設定は通ずる部分はあるが、橋口作品で時折観られる長回しで撮った"奇跡の瞬間"がこの作品ではいつまでも立ち現れないのが残念と言えば残念…
