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そばかすのjunのレビュー・感想・評価

そばかす(2022年製作の映画)
3.6
恋愛に興味のない女性が多数派の圧力に悩み自分の在り方と向き合うお話。

主人公蘇畑佳純は30歳、独身、実家暮らし。チェロの道を諦め特にやりたくもない仕事に追われる日々を過ごしていた。

佳純はずっと昔から他者に対して性的欲求や恋愛感情を抱くことがありませんでした。
だけど人に興味がないわけではなく普通に考え方が似た男性に会うと友達になろうとするし、女友達に誘われれば合コンにも顔を出します。だけど相手が同じアセクシャルではないので仲良くなった先にどうしても恋愛がちらつきます。そうなると何を言っても相手は自分を拒否されたと思い誤解が生じ友達関係さえも終わってしまう。

家に帰れば結婚結婚とうるさい母と「もしかしてレズなんじゃないの?」とデリカシーのない発言をしてくる臨月の妹…

どこにも居場所がない佳純が時折浜辺で寝そべって息抜きをしていた姿が印象的でした。

苦しい映画だけどただひとつ救いだったのは佳純自身は自分がアセクシャルであること自体には悩んではいなかったこと。
それが自分だし変わる必要なんてない。
あくまで理解されない世の中と多数派の圧に悩んでいた。

そこは自分を大事にしている気がして佳純の自尊心みたいなものを感じられてよかった。

別に少数派でもいいと思うし。
誰にも迷惑かけてないし。
王子様に興味のないシンデレラがいても面白そうって思う。
“正しい価値観”ってなに?
みんなちがってみんないいって金子みすゞも言ってたし。

と、ブツクサ言ってしまう私もたぶん物事の考え方とか捉え方とか世間では少数派に属するんだろうな。笑

最後に登場する天藤という後輩保育士。 
佳純と同じような価値観の持ち主でした。
歓迎会やろうよ!と誘われても「そういうのいいです」とあっさり言ってのける。佳純が他者との摩擦を気にしてできなかったことをあっけらかんとしてしまう。
冒頭の合コンのシーンで自分を押さえて周りに合わせてしまう佳純とは対照的でした。
だからこそ、天藤の存在は佳純にとって憧れであり救いだったと思います。

『映画行きましょうよ』と誘っておいてお互い観たい映画が違うとなると別々に観る。どちらかがどちらかに合わせるとかじゃなくそれならと”別々”を提案できる関係性って素敵だなと思う。

わずか数分しか登場しない天藤と佳純のシーンですが天藤がありのまま生きている姿を見て佳純も自分はやっぱり自分のままでいいんだと確信して吹っ切れたように走り出す姿が印象的なラストでした。

宇宙戦争のトム・クルーズのただただ逃げるような走り方はちょっと観てみたい。
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