みおこし

エデンより彼方にのみおこしのレビュー・感想・評価

エデンより彼方に(2002年製作の映画)
4.0
1957年、コネチカット州。エリート会社員の夫フランクと2人の子供に恵まれたキャシーは、誰もがうらやむ完璧な主婦。しかし、フランクのオフィスを訪れた際に夫のある“秘密”を知ってしまい、それ以来彼女の生活が一変、ひとり悩み続けることになってしまう。そんな彼女を気遣う黒人の庭師レイモンドと話すうちに、彼女の心も救われていくのだが…。

1955年公開の『天はすべて許し給う』という映画にオマージュを捧げた1本で、1950年代の保守的な社会・家庭に生きる主人公が直面する悲しすぎる現実を描いています。
黒人や同性愛者など、マイノリティに対して特に偏見がひどかった時代。あくまで本作はフィクションですが、実際に同じような悲しい経験をした人たちがたくさんいて、時代が違えばもっと幸せになれたはずだと思うと胸が締め付けられます。人種や性別を越えて誰を好きになろうが“普通の感覚”なのに、それを異常とみなして病気の治療を施されたり、街中にあらぬ噂を吹聴されたり…。生きづら過ぎる世の中で、肩身の狭い思いをするキャシーやその家族、レイモンドの姿を見るのは本当につらかったです。
キャシーを演じたジュリアン・ムーアの目を見張る美しさ、そしてブルジョワ家庭の完璧な主婦として順風満帆な人生を送ってきたのに、突然経験したことのない感情に苛まれて追い詰められていく様子の熱演がとにかく素晴らしかったです。多くは語らないけれど、そんなキャシーを優しく見守るレイモンド役のデニス・ヘイスバートの静かな演技もまた良かった…!ラストシーン、2人が“目”だけで演技するところがあるのですが、2000年代に公開された映画の中でもトップクラスに胸を打つ素敵なシーンでした。

本作の製作にあたり、50年代のアメリカの生活感を徹底的に再現しようと試みたトッド・ヘインズ監督(『キャロル』の監督)。クラシックカー、ポストカード、キャシーたちのドレスに至るまで当時の息衝きが伝わってくるようなリアリティに溢れていて、レトロな世界観が好きな私にとってはツボ。アメリカの国民の生活を描いた画家として知られるノーマン・ロックウェルの絵を彷彿とさせます。
さらに色彩も素晴らしくて、それこそ50年代当時に封切られたテクニカラー映画のような、ちょっと現実離れしているほどにビビッドだけど上品で目の保養になる色遣いが圧巻!皆さんレビューで書かれていますが、特に紅葉のオレンジがすごく美しくて、逆にその美しさがキャシーの悲しみと相反するようでより儚い気持ちに。エンドロールに登場する水色の刺繍柄の背景もよかったな~。

息をのむほどの美しい映像と音楽に心癒されるとともに、今もなおアメリカに残る差別感情に胸が苦しくなる秀作でした。オススメ!
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