ボブおじさん

宮松と山下のボブおじさんのレビュー・感想・評価

宮松と山下(2022年製作の映画)
3.7
何とも複雑で繊細な話である。その複雑で繊細な心のひだを香川照之が実に上手く演じている。そして絶妙にヤナ感じをイイ感じで演じる津田寛治😅

記憶を無くした宮松は、かつては山下と呼ばれていた。エキストラとして台本通りに動く宮松は、決められた枠を埋めていく様な今の仕事を気に入っていた。

途中で意味ありげな台詞と共に登場する人物が、現実のものなのか、映画の世界のものなのか見分けがつかぬまま宮松の世界に連れて行かれる。

記憶をめぐるミステリーだと思っていた私には、ビアガーデンのサラリーマンもタクシー会社の元上司も、そして妹を名乗る女やその夫も全て怪しく見えてしまった。だが、どうやらそういう映画ではなかったようだ😅

〝記憶を無くした理由〟に対して勝手に妄想を膨らませていた自分には、この複雑で繊細な関係性は、何だか少し物足りなさを感じてしまった。韓国映画の見過ぎだろうか?

最近の説明過多な邦画に対して辟易していた自分には、台詞や状況説明を極力削ぎ落とした演出は、好みであったが、もっと大きな驚きを想像していた〝宮松の過去の秘密〟については残念ながら想像の範囲内であった。

宮松はタクシーの運転手の仕事を〝自分で行き先を決めなくていいから楽でいい〟と言う。それはエキストラにもロープウェイにも言えることだ。

〝こっちに戻ってくるんでしょう?〟
〝こっち?〟
〝そう、こっち〟

今度は自分で行き先を決めなければならない。果たして彼が戻るのは他人の人生を演じるエキストラの宮松か?それとも思い出したくなかった過去の山下か?