まっしろしろすけ

ファニー・ページのまっしろしろすけのネタバレレビュー・内容・結末

ファニー・ページ(2022年製作の映画)
3.5

このレビューはネタバレを含みます

夢は生きるための糧でもある一方、時にはこちらに牙をむく存在でもある。本作はそんな夢に牙をむかれ食いつくされてしまった男たちをどこか愛おしく見つめる映画。

主人公ロバートは成人向け漫画の絵描きを目指す高校生だが、彼はどこか絵に対する情熱は冷めはじめ、堅実な将来を選ぶか、漫画の方に進むか迷いが出てきた頃。そんな彼の揺れ始めた心に、ロバートの恩師カターノは彼に対し𠮟咤する。「普通の絵は描くな、お前の絵をかけ。」「お前はもうこの業界じゃプロのレベルだ。」ただその激励もロバートのアラームによって中断される。校外まで彼を追ったのも束の間、カターノはロバートの前で交通事故をおこし亡くなってしまう。トラウマともいえる衝動を抱えたままロバートは親元を離れ漫画家への道を進むのだが…といった内容。

薄毛やメタボ体型など今となっては笑いづらくなったコメディの数々にはじめは困惑があったが、そういった人々に対する意地悪な視点と共に結局はブーメランのように自分へと帰ってくる同属意識が感じられる。中盤、仕事先の上司シェリルが同僚を呼びつけ、彼の似顔絵をロバートに描かせ、完成した絵を見て爆笑するという象徴的なシーンもある。ただ、2020年代のコメディ作品としてはそういった差別的なコメディへの視座は欲しいところ。よく言えば古き良き、悪く言えば前時代的ではあると思う。

登場するキャラクターは漫画家、ひいては芸術家の根源的な欲求である後世になにかを残したいという衝動の被害者であり、加害者たちだ。序盤、ロバートがカターノに叱咤激励されるシーンがあるが、見ようによっては彼を甘い言葉で誘惑し、将来性のある青年をひっかけ、未来の人気漫画家を育てた教師として、後世に名を残そうとしているようにも見える。そんなカターノに対し、ウォレスは自分のみてきた現実を(八つ当たり半分で)ロバートに教える。この対比が面白く、同時に心に重くのしかかる。
「天才なんてやりたくてもできないんだ」と嘆くウォレスの姿には思わず目頭が熱くなること請け合いだし、ラストにそれでも漫画を選びバイト先のコミックショップのレジに鎮座する彼の顔には間違いなく希望があった。

オフビートなコメディが売りの作品なので空き時間を埋めたい時、気楽に映画を楽しみたい時なんかにおススメ。上映時間も86分と短めなので是非。