のもちゃん

アルゼンチン1985 ~歴史を変えた裁判~ののもちゃんのレビュー・感想・評価

3.8
先ず、検事の長文となる最終弁論の一文一文が素晴らしかった。独裁軍事政権が行ってきた「残忍・卑劣・卑怯」な行為の数々を「二度と繰り返させない」ために、極力難解な法律用語を避け、過酷な自己の経験を声を振り絞って話した証人達の生の声を盛り込み、我が子の校正助言をも取り入れた弁論。つまり、国民の総てに訴える弁論だった。それは、判事たちの心も動かし、アルゼンチンの民主主義を守る画期的裁判となった。
この最終弁論をじっくり長回しで浮き立たせるためか、静かなストーリー展開の映画だった。しかし、担当した検事や若い人達の努力と熱意がどれほどあろうが、1つの裁判が民意を動かし国家の体制を変えるまではできない。軍に愛する子を殺されたり、行方不明にさせられた母親達は、軍への静かな反対行動を既に始めていたと後で知った。また、権威を守るため容易に殺人(指令)を行ってきた被告人の軍幹部達は、裁判に関わる検事や証人たちにもっとあくどい妨害や脅迫を行ったはずだが、それもサラリと描かれていた。
なぜ画期的な判決が出たかの説明が足らず、少し分かりづらいと感じた結果、私はアルゼンチンの歴史やこの裁判の概要を調べる気になった。日本から地理的に最も遠く、「サッカーが強い国」程度の知識しか持たず、馴染みが無かった国を少し身近に感じるきっかけとなる映画だった。
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