『ジョーカー』の5年ぶりの続編。
ジョーカーとして覚醒し、
収監されたアーサーは、
1人の女性との出会う。
結論から言うと、非常に良かった。
音楽という自己表現ツールを得た事で、
自己の世界を"ミュージカル"として
表現してゆくジョーカーの統合と乖離。
アーサーという人間の精神世界を
映し出すミュージカルシーンは、
不協和音を奏で続ける舞台装置に
ホアキンフェニックスとレディーガガの
歌唱力が加わり、圧巻のクオリティ。
繊細な美しさと狂気に満ちた、
唯一無二のミュージカルとなっている。
彼の精神世界を写す
ミュージカル映画としての一面、
ハーリーンとの愛を描く、
ラヴストーリーとしての一面、
ジョーカーとは何者かを追う、
法廷ミステリとしての一面も持つ、
今作の構成そのものが
アーサーと同じく多重人格のような
不均一で掴みどころのない、
造りとなっており、
各パート間の絶妙な溶け合わなさ、
不協和音がまた面白い。
ミュージカルシーンに限らず、
どの場面を切り取っても
ひとつひとつのシーンが、
とにかく絵になる美しさを持っており
演出としても洗練され尽くしている。
前作に比べ、舞台となる場所が限定され、
限られた狭いフィールドの中で
物語が進行する事においても、
今作においては、
閉鎖的な空間でアーサーと
ジョーカー、二つの人格に苦しむ
主人公の精神を演出するための
効果的なものとなっている。
前作でジョーカーとしての
アーサーの覚醒とその狂気に魅せられ、
熱狂し、共鳴した鑑賞者たちを、
ある種断罪し、ある種解放する物語であり、
前作に対する明確なアンサーを出す
続編としても意義のあるものとなっている。
悲しみと怒り、
そして覚醒をテーマにした前作に対して、
愛と懺悔、
そして破滅をテーマにした、
ストーリーラインも秀逸。
前作と比較すると
淡々とした物語ではあるが、
その平坦さの中にミュージカルという
感情の揺らぎを取り入れることで、
魅せ、聴かせ、没入させ、
飽きさせる事のない140分。
アーサーという1人の人間を描いた物語は
今作をもって、ようやく1つの作品となる。
この作品そのものがアーサーの、
またジョーカーのジョークにも観え、
この作品に賛否を論じる我々は既に、
彼の作る舞台の1パートなのかもしれない。
年間ベスト入り確実の傑作。