素晴らしかった。
前作の解体に臨む、トッド・フィリップス&スコット・シルバーによる脚本。ある意味で正統な続編、いや前後編とも言える親和性を持ち、一方で観客の予想を裏切る物語の運び方がすごい。
全体の映像トーン、優れた美術による世界観、そして音楽。これらは前作から今に至る時間の隔たりを全く感じさせず、2作を一緒に撮ったのかと思ってしまうくらい。
同じく主演ホアキン・フェニックスも、前作の後に『ナポレオン』など撮ってるはずだが、前作の続きでそのまま撮影されたかのようにアーサー・フレックをそのまま演じている。毎回そうだけど今回も素晴らしい演技で、特にある瞬間でホアキンがカメラに向ける目は、こんなことできるのかと衝撃的だった。歩き方や立ち振る舞い、そこにいるだけで何かを伝えられる、ダニエル・デイ=ルイスに並ぶ現代の名優。ちなみに冒頭はカートゥーンで始まるが、漫画のジョーカーの動きがまんまホアキンで、ちゃんとそれを捉えた制作者も、そして漫画で描かれる動きを自分の体でできてしまうホアキンもすごいと思った。
レディー・ガガのキャラクターは、アーサー以上に謎が多い。でも彼女が演じたからこそ説得力が生まれたと思う。
ミュージカルとも言い切れない、普通のシーンからシームレスに歌唱へと入る演出も見事で、歌がキャラクターの心情の延長線上にある。新たな試みとして成功していると思う。
アーサーとジョーカーは、同一人物なのか。それとも別人格なのかという問題について。これは誰しもに当てはまるアイデンティティの問題であり、彼の妄想世界も含めて、個人的に非常に刺さった。
観るのに体力が必要だけど、また観返したいし、挑戦的で芸術的な素晴らしい映画だと思う。