鮭茶漬さん

少女は卒業しないの鮭茶漬さんのレビュー・感想・評価

少女は卒業しない(2023年製作の映画)
5.0
些細な情緒まで描ききった中川監督、さすがである、青春期の繊細な心情描写が見事だ。現代の青春物の最高峰と呼んでもいいだろう朝井リョウ原作という大きな壁を難なくクリアしている。それどころか、卒業式までの二日間しか描いてないのに、彼らの学生生活数年間の喜怒哀楽が躍動するように伝わってくる。余計な説明を排除した台詞の妙である。最近の日本映画は下手に説明くどく、ウンザリするので、この映画のように、言葉や映像にないものを察することを観客に信頼できる映画は観ていて気持ち良い。

手作り弁当を内緒で共有する生徒、喧嘩別れしたまま冷え切った関係性で膠着状態のままの生徒、クラスに馴染めず図書室に籠もる生徒、過激なビジュアルバンドの特異性から校内の笑い者を支える生徒、それぞれの女子生徒の卒業式までの尊い時間の心理が交差し、群像劇としても素晴らしい。彼女らを取り巻く周囲の生徒も、この切ない日々の感情を突き動かすのに機能的に彩っているのも素晴らしい。主人公だけの視点ではない、青春期は多くの学生の様々な視点で成り立っているという『桐島、部活辞めるってよ』で描いた群像に通じるものがある。いや、中年なのに、冴えない高校生活だったのに、思わず涙がこぼれた。

特にキャスティング勝ちな部分があった気がする。超有名若手を制服コスプレさせるのではなく、これからという若手に限定したことの自然体の演技がドキュメント的な緊張感、瑞々しさを醸し出していた。女子生徒三人(河合優実、小野莉奈、小宮山莉渚、中井友望)が素晴らしかったのは言うまでもないし、その相手の男子生徒も素晴らしい。特に窪塚愛流の存在感は父親譲りだろうか、出番は少なめであったが、強烈に印象深かったのに驚いた、しかし、口調など父親にそっくりである。彼らの今後に期待だ。

※この記事の著作はROCKinNET.comに帰属し、一切の無断転載転用を禁じておりますので、予めご理解の程よろしくお願いいたします。
鮭茶漬さん

鮭茶漬さん