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ヴィーガンズ・ハムのyukoのレビュー・感想・評価

ヴィーガンズ・ハム(2021年製作の映画)
4.0
おいおい、色んな方面に怒られるからやめとけ!と言いつつ、不謹慎に振り切る悪ノリぶりについ笑ってしまう。悪趣味で下品といえばそれまでなんだが、笑いのセンスで乗り切るパワフルさがさすが、フランス映画。中途半端じゃなく、ここまでふざけ倒せば笑うしか無いという匙加減が計算づくで、実際意にはまってしまう。

とはいえリベラル(リベラル=ヴィーガンという図式自体が誇張された偏見かもしれないが)の攻撃性への警笛が、固定観念化したヴィーガンをメタファーに描かれていて、それをあえて滑稽に誇張し、ユーモラスに落とし込むのは見事。

フランスに根付くレイシズムの香りも嗅ぎ取ったのだが、脈々と受け継がれるフランス社会の空気なのだろうか。移民の歴史が関係してるのかも。定型化された思想抜きにしても、単純に自分以外の信条を互いに攻撃の対象にしてしまう過激さを風刺しているように感じる。さらに言えば差別が日常化し過ぎて、笑いのコンテンツになっている土壌がありそう。もちろんリベラル、反リベラル、レイシズム、反レイシズムという相反する思想の立場の人々、どちらも存在してる前提で、しかしその辺アメリカや日本より緩そうな空気感は感じる。不毛な叩き合戦よりユーモアに回帰してガス抜きする一つの方法なのかも。そういえば最強の2人でもそんなフランスのバックボーンを感じたな。

"犬の捜索は中国人に任せられないでしょ"
"アッラーフアクバル"
"イラン豚"

こういうの無自覚に笑っちゃえるのがフランス人なんだよとステレオタイプに言うつもりはないが、そういう空気はあるんだろうなー。アジア人は差別するにも値しないって聞いたことがあるし、フランス人には侮蔑している自覚がない。

人種間差別だけじゃなく、宗教や生活スタイルや政治思想など世界中で起きているあらゆる対立に当てはまるし、批判に思考ゼロで攻撃的になるのではなく、違いを受け入れ受け手が一枚上手になることで、分かり合えるステージに持っていくことはできないか、そんな問題提起を感じた。

他カテゴリーに優越を得たかったり、恐怖を覚えて排除しようとするのは、抗えない人間の本質なのかもしれないが。フランスが自由平等友愛の国って自ら掲げてるのも皮肉。

不謹慎だと、目を吊り上げるタイプの人にはおすすめできない。あくまでブラックコメディーなんで。
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