幽斎

ビハインド・ザ・ドア 誘拐の幽斎のレビュー・感想・評価

4.0
バルセロナ近郊に在る海辺のリゾート地Sitgesで毎年10月に開催される映画祭から厳選された作品を上映する、シッチェス映画祭公認「ファンタスティック・セレクション2022」。アップリンク京都で鑑賞。

タイトルホルダー的な上映会でシッチェスが一番好きかなと思う今日この頃。以前は東京まで下向(笑)、ヒューマントラストシネマまで行く必要が有ったが、アップリンク京都が出来て随分と楽に成った。同時にシネリーブル梅田へ行く機会も減って大阪の事情にも疎く為る。スタンプラリーでTシャツをゲットとかグッズに興味は無いけど、東京、名古屋、大阪、京都、神戸以外でもオープン・マインドされる事を期待したい。

David CharbonierとJustin Powellの長編映画デビュー作。メインはCharbonierで「Off-Season」短編の後、長編映画に取り組むが資金難で頓挫。脚本も予算の制約を理由に複数の制作会社から断られたが、Powellと組む事で、テキサスで開かれたファンタスティック・フェストに出展。ソコで評価され世界最古で最大のシッチェスに繋がる。Powellは「ジョン・ウィック:チャプター2」等の有名作品のポスプロ、Post production coordinatorを経て監督に初挑戦。主人公ボビー役はアカデミー短編実写賞のレビュー済「SKIN」Lonnie Chavis。本作は難易度の低いジュブナイル・スリラー。

インタビューでPowell監督は「グーニーズ」こよなく愛すると熱弁を揮い、Charbonier監督は私のベスト・ムービー「シャイニング」スリラーを敬愛すると語る様に、二人の趣向がそのまま反映されるので、ソレをオマージュと好意的に見るか、オリジナリティが足りないと苦言を呈すかで評価が割れる。バスルームに逃げ込んだボビーを誘拐犯が「斧」で襲うシーンは完全に「シャイニング」。「早く大人に成って街を出たい」夢を語るシーンはジュブナイルの十八番、両者のコンセンサスをもう少し整理すべきかな。

私は趣味の読書に集中する為、PlayStation4の登場を機会に今はゲームを全くヤラないがソレ以前は結構ヤリ込んだが、本作を観て「クロックタワー」思い出した。殺人鬼の徘徊する館から脱出する有名作品、本作も脱出ゲームを彷彿とさせる、人里離れた古い屋敷、閉鎖された空間で観客はその場に居るような臨場感で映画の視点と言うより、プレーヤー視点の気分に浸れる。プロットもアイテム重視で、施錠されたドア、古い電話の使い方、隠し金庫の存在、足枷の鍵、スタンガン等、このテの作風はアメリカでPuzzlerと言うが、伏線回収より用意された謎を物理的に処理するので、些か子供染みた様に見える。

【ネタバレ】物語の核心に触れる考察へ移ります。自己責任でご覧下さい【閲覧注意!】

誘拐犯が美女だったと言うのも、完全に中二病の世界。一瞬ノーメイクのAngelina Jolieに見えた(笑)。ノーネイムの誘拐犯Kristin Bauer van Stratenは日本では知名度は低いが、結構名の知れた女優。ジュブナイルのお約束でお間抜けな警察官とかリアリティはソッチのけ、怪しい家に入る時は銃ぐらいキチンと構えろよ。大人から見ればサッサと逃げて助けを呼べよと思うが、彼ら言ってましたよね「死ぬまで友達だよ」。察しの言い方は嫌なフラグに感じたろうが、自分達の言葉で「拘束」されてる事に大人も気付いて欲しい。

本作は元ネタと為る事件を基に描かれる「Steven Stayner kidnapping」1972年本作と同じカリフォルニア州マーセドで7歳の少年スティーブン・ステイナーが中年男に連れ去られ、性的虐待を受け続けたが、7年後に自力で生還。犯人が新たに誘拐した少年ティミー・ホワイトも救出した為、一躍全米のヒーローに成った。レビュー済「サマー・オブ・84」もインスパイアしてるが、性別比率で言えば圧倒的に少女の方がMissingは多い。レビュー済「ブラック・フォン」意図的に少年だが、もし本作の主演が少女二人なら、観客は素直に映画を楽しめないと思う(ホラーで例外アリ)。何だアメリカの話だろ、と呑気に思った貴方「少年誘拐ホルマリン漬け事件」ググって見なさい。誘拐は映画より事件の方が遥かに恐ろしい。https://middle-edge.jp/articles/l10CC

関係ないけどアップリンク京都って設備も新しく何の文句も無いけど、シッチェスが基本レイトショー扱いなので、オジサンがビール飲んで酔い潰れて寝るのは良いんだけど「イビキ」マナー違反ですよ。係員に言って退場させたけど、もう少し映画に対するリスペクトを持って欲しいね。今はお金を払ったから何しても良い時代では無い。話を戻すとアベレージ3.8かなと思うが、彼らの奮闘を称えて4.0を奮発しよう!(笑)。

ホラーやスリラーと言うより「上手な隠れん坊」と思って観れば大人も楽しめるかも。
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