幽斎

アシスタントの幽斎のレビュー・感想・評価

アシスタント(2019年製作の映画)
4.4
「ジョンベネ殺害事件の謎」ドキュメンタリー作家Kitty Green(美人)が、ハリウッドのセクハラ大王Harvey Weinsteinのアシスタント(後にフィクションに変更)した長編映画初挑戦のソーシャ スリラー。京都のミニシアター、京都シネマで鑑賞。

※本作には直接的なセクシャル ヴァイオレンスは有りませんが、経験が有る方の忌まわしい過去を思い出させる可能性も感じたので、鑑賞には留意して頂ければと思います。

映画業界の闇を暴いた#Me Too「Time’s Up」テーマに「黙認する現実」浮き彫りにする。監督はドキュメンタリーで磨いた手腕で数百人に及ぶリサーチを敢行。掘り下げられた主人公Janeのキャラクターは、アメリカ英語で名無しの権兵衛の女性を意味する「Jane Doe」由来。傑作スリラー「ジェーン・ドウの解剖」同じ意味。本作の鑑賞前にレビュー済「スキャンダル」「SHE SAID シー・セッド その名を暴け」強くお薦めする。

「Time’s Up」って何じゃらホイ?、トヨタのCMでは有りません(笑)。MeTooに合わせハリウッドのセレブが賛同した運動方針。「セクハラを行う男性の行為がまかり通る、被害に遭った女性が口を閉ざす時代は終わった」Natalie Portmanの発言から拡散した。

レビュー済「レンフィールド」言及しましたが、皆さんは「GasLighting Stalker」ご存じだろうか?。ミステリーでもガスライティングと言いますが、相手を混乱させ己の意志を疑わせる「心理的虐待」。自分の記憶に疑念を抱くように仕向け、支配しようとする行為。サイコパスの得意技に見えますが、日本でも増加傾向。具体的な手法を指南するつもりは有りませんが、無視、除外、威圧、否定、軽視と言う無形の圧力を加え、相手が依存して服従する様に仕向ける。貴方が女性だとして「あの人って私が居ないとダメなのよ」と思ったら、遠慮なく私に相談して下さい(笑)。

心理的虐待の現実を、ジェーンの一日を通じて単調な仕事の中、自らの意志を奪われ従う女性を浮き彫りにする。秀逸なのは劇伴とか大袈裟な演出を排除、ディテールを繊細に描き「自分と重なる誰かのストーリー」共感させる。ジェーンの仕草や表情でクロースなリアリティすら醸し出す。無機質を「Inorganic」と言うが、ジェーンのオフィスは(意図的だが)薄暗く、電話の音、タイピングの音が無機質を演出。紙を丸めて投げる同僚を「抑圧的」とモンタージュ、物言わぬ映像の力は写実的でも有り寓話的にも見える。

事務職「あるある」コピーや荷物の受け取り等の簡便と言う名の「雑用」、挙句の果てに子供の世話とか夫人の電話等、業務から逸脱したモノまで。同じ「アシスタント」でも男はPCにかまけ、彼女を手伝おうとしないばかりか、会長に怒られても何のフォローもしない。彼女の謝罪メールがスリラーのミスリード並みの狡猾さで、己の意思に反する論理の摩り替えは、見事なガスライティング ストーカー。キャリアアップの機会は何も与えられない明確な男女格差、派遣や請負で働く方も全く他人事では無いと思う。

「#Me Too」上下関係を悪用したレイプが発端、ジャニーズ性加害と同じく、糾弾された犯罪者は権力を持つ人間。秀逸なのは黒幕の首謀者を具体的に映す事無く、見えない存在感と声だけでジェーンの抑圧された感情、プレッシャーが恐怖に変わる根源は「黙殺する人々」組織全体で苦しめるコンプレッションまで浮き彫りにした。セクハラ大王を排斥したら事は済むと言う単純なモノでは無い。アメリカの諺に「One bad apple spoils the barrel」1個の腐ったリンゴで樽の全てのリンゴも腐る「悪いリンゴ理論」。集団に於ける腐敗した人物からの悪影響を指すメタファーを本作はテリフィックに描いてる。

私はジャニーズ問題を黙殺した癖に、イギリスのBBCが「J-POPの捕食者 秘められたスキャンダル」世界中に放送して急に態度を変えたメディアに憤りを禁じ得ませんが、外圧に屈するなら長年芸能界で言われてる女性側の性加害「誰かと寝る」枕営業は誰でも知ってる筈なのに、未だジェーンの様に無視され続けてる。

2023年11月、女優の若林志穂さんがX(Twitter)に性被害を受けた告白を投稿。Vシネマで人気だった俳優Yさんが、泊まってるホテルの部屋まで突然きて「これ飲みなよ」白い錠剤を渡され断わりきれず缶チューハイと共に飲むと意識を失いました。気がつけばベッドの上でYさんが馬乗りになっていた。事の信憑性は兎も角、CMに起用した女性タレントと企業側の社長の息子との枕営業の噂は常に絶えない。

ジェーンの同僚は会長のタイプの女性に仕事を与える、ソレは自分の「保身」他為らない。レビュー済「スキャンダル」でも、加害者は我慢すれば事が済むと基本的な人権すら無視。ソレこそ「有害なシステム」だと本作は一刀両断。私には働く職場では無く鉄格子の無い「牢獄」に見えた。息抜きの小ネタ、Ellen役のDagmara Dominczykは、私に似てると噂のPatrick Wilsonの妻です(笑)。

本作を高く評価する理由は「Time’s Up」描く場合「主人公は被害者vs加害者は悪者」が多い。しかし、本作は諸悪の根源の会長は姿を現さず冒頭でアテンションした様に、セクシャルなシーンは有りません。レトリックは「有害なシステム」で、秀逸なのは本作のジェーンも間接的に有害なシステムに加担してる事に気付いたでしょうか?。監督の真意を理解した方はジェーンが「被害者」には見えない筈。寧ろ加害者として罪悪感に苛まれる様にも見える、タイトル通りAssistantしてる。ミステリーで言う「Overwrite」被害の上書きに苦しむのは常にヒエラルキーの最下層なのだ。

目的意識と人権意識のプライオリティを決める、更なる深掘りも求められてると感じた。
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