マインド亀

メトロポリスのマインド亀のレビュー・感想・評価

メトロポリス(2001年製作の映画)
4.0
まさにジャパニメーションの粋を結集した「ジグラット」!

●アマプラ無料期間終了のため、慌てて観ました!日本アニメの最高峰『メトロポリス』!
こちらは星を4とさせていただいておりますが、かなり厳し目につけた4と思ってほしいと思います。理由は後述いたしますが、やはり手書きセルをメインにしたアニメとしてのクオリティは、恐怖を覚えるくらいのレベルですね。

●この時期に近い手塚アニメ映画作品は、『あしたのジョー』『エースをねらえ!』で有名な、出崎統監督の『ブラックジャック』が1996年、冨田勲の音楽で有名な『ジャングル大帝』が1997年でしたので、勝手にその松竹系の流れの集大成的なものと思っていたら、東宝だったんですね。
というより、りんたろう監督『メトロポリス』、大友克洋監督『スチームボーイ』、押井守監督『G.R.M.』のバンダイビジュアルの企画「デジタルエンジン」の流れだったんですね。
その後紆余曲折し作品の製作が、あちこちのスタジオに移り、『スチームボーイ』は遅れに遅れてサンライズより2004年に上映、『G.R.M.』は企画凍結、別の実写映画『アヴァロン』を2001年に上映、となっており、『アヴァロン』と同年に上映されたのが本作『メトロポリス』でした。
(ウィキペディア「デジタルエンジン」参照
https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E3%83%87%E3%82%B8%E3%82%BF%E3%83%AB%E3%82%A8%E3%83%B3%E3%82%B8%E3%83%B3 )

当時は全くこの流れがわかってなかったので、なんとなく松竹系の流れで、特に人間キャラがリアルな等身に描かれ直したリアル路線の作品だと思ってました。なので当時は観もせずに!「なんだか大スベリしそうな大作だな…」と思っておりました。結果的に興行収入は良くなかったみたいなんですが、中身を観ないで判断するのは良くなかったなあと思いました。

●というのは、やっぱり当時のアニメーションの粋を結集して作られた、その作画のレベルが、オーパーツのように今では到底無理なレベルで手描きをしているそうで。
例えば冒頭のモブシーンなんかは、今ならCGでAIなんかが動かすレベルを全て手描き!その労力は計り知れません。また、当時使われ始めたCGも、決して楽をするためではなく、リアルを追求するために使われており、手描きと3Dの融合に大変アナログな工程を挟んでいるそうです。
また、キャラクターのアクションがいちいち実写のように細かく、そしてヌルヌル動きます。
例えば、ティマがロックに銃をむけるアクションでは、いったんびしっと構えるものの銃の重みで腕がブレて、腕に力を入れて構えを固定する、というようなことを自然とやってのけるのです。もう、観てるだけで頭がクラクラします。

●また、美術面も大変なことになっておりまして、サイバーパンクやスチームパンクならぬ、ブリキパンクとでもいいましょうか、手塚治虫初期作品当時のレトロ感と、大友克洋作品のサイバーパンクやスチームパンクのテイストを組み合わせたような舞台がこの作品の世界観なのです。そしてそれを子供の遊びのようにぶっ壊していく大友克洋っぽさ。なんとなく、引きの絵が多いのもその美術をしっかり魅せるためでしょうか。
また、降りしきる雪の表現も美しい。

●そして最後はやはりキャラクターデザインの良さでしょうか。前述の『ブラックジャック』や『ジャングル大帝』は人間キャラの等身が上がっており、目の配置や表情も少しだけリアル寄りにチューンナップされてます。なんだかコレジャナイ感が強い印象なのですが、この『メトロポリス』はもう本当に絶妙なバランス!初期の手塚治虫キャラにきわめて近いキャラがリアルにごりごり動き回る感動があります。特にケンイチはティマよりも、手塚治虫キャラの色気をビンビンに発揮してると思いました。ロボットデザインも可愛いものが多くて良かったです。まさにブリキの宝箱のようなデザインでした。

こういった、労を惜しまず、アニメーションそのもののフェティッシュの追求に追求を重ねたことによって、まさに当時のジャパニメーションの「ジグラット」といえる作品は、海外からも大変評価の高い作品になったのだと思います。

●しかしながら、厳しいことを言うと、やはり話そのもののつまらなさが大きなマイナスになってるんですね。

大まかなことを言うと、やっぱり大友克洋の作品にありがちな、ラストの大崩壊。これに向けて物語が動いているのが、序盤のキャラの紹介部分から見えてくるので、大崩壊が始まったときには、やっぱりな、としか思えなかったです。

また、ストーリー自体は、ありとあらゆるロボット(もしくは人造人間)作品からの引用を集め、散りばめ、大きく内包すると言った形で、源流としての『ピノキオ』『フランケンシュタイン』そして手塚治虫の本作のインスピレーション元のフリッツ・ラング版の『メトロポリス』から派生し、石ノ森キャラまで(「その辺の趣味ブログ」さん(https://deadpoetssociety.hatenadiary.jp/entry/2019/07/02/005210)によるとブレードランナーまで!)を網羅しております。
正直、その割に結末が大味だったのが残念というか、原作やフリッツ・ラング版の『メトロポリス』のように、人間とロボット、人間と人間、の生身の衝突が観たかった気がします。
ロボットの反乱を、途中の電磁パルスの強制発生によって、ロボットの意志とは関係なく描いてしまったのが、物語的にも意味がなく、軽い扱いだったのが残念すぎました。
こうなると、この作品で描きたかったテーマはいったいなんなのか、というところがちょっとよくわかりませんでした。

またこの作品の原作にはないオリジナルキャラのロックのファザコンぶりは何なんでしょうか。特にその理由も描かれなかったので、敵側、主役側の両方にとってめちゃくちゃ面倒くさいやつすぎて、イライラしてしまいました。何がしたかったのよ?

正直、ティマが全人類を消すタイムリミットを発動したときは、めちゃくちゃワクワクしてしまいました。ここからヤベエの始まる!と思ったのですが…
もう少し、「なんだかよくわからないがすげえ!」という部分を突出させてほしかったなあと思いました。

この後、大友克洋作品では『スチームボーイ』も似たような失敗をおかしてしまったと思ってます。『アキラ』だってストーリーむちゃくちゃだけど、全ての面において記憶に残るアクの強さがありました。

あ、あとラストのレイ・チャールズの『i can't stop loving you』、歌詞の意味からしてもめちゃくちゃいいんです。めちゃくちゃハマってると思いましたし、海外からの評価もここで爆上がりしてるんだと思うのですが、正直、あんまり現代世界との結びつきを感じられない舞台設定なので、ちょっと突然感がありました。もう少し序盤から「過去の世界」の既存曲を小道具として使ってもらってれば、すんなり受け入れられたと思うのですが…

●と、物語面においてはかなり厳し目ですが、それでもやはり、もうこの現代日本では二度と作ることの出来ないであろう夢のようなアニメーション作品であることは間違いありません。全く観ないと言う手はございませんので、是非観てほしいと思います!
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