横川百子

福田村事件の横川百子のレビュー・感想・評価

福田村事件(2023年製作の映画)
3.0
大体年に一、二度「これは予感がする!」っていう作品が突然現れるもんだけど、今年は本作がまさしくそれで、観に行って来ましたよ片道二時間半かけて。
近場でも定員110名くらいのハコなら上映してたんだけど満席に近く、「その環境で観るのなんかヤだなー」と思ってたところ何故か定員360名のどデカスクリーンでやってる劇場を見つけたので、久しぶりに興奮状態で直行!で、ガッラガラだったんだけど…(それはそれで淋しい)。

結論を先に書くと、チョー期待した私の勘はハズレた!
ヌルい!!世間的には絶賛票が大多数だけど、私には「非常に勿体無い作品」に見えました。

料理の完成ヴィジョンも具材も素晴らしかったのに調理の仕方がイマイチだったために具材の美味しさだけで終わっちゃった料理。
みたいな…。

多分今作は、脚本はこのままでも、
一部の役者さんを除く多数の役者さんのお芝居・モブシーンの動きの捌き方・編集・カメラワーク・音楽と、あと役者さんの演技への演出、諸要素にYES・NOの判断をすると言う意味での監督のトータル的な演出などがもっとレベルの高いものであったら、きっとこの程度の狂気、緊迫感、衝撃では絶対に終わっていない題材で大傑作になり得たかもしれないと思い、鑑賞後つくづく勿体無い気分になりました。
多分一度目の鑑賞時、終盤数十分に衝撃を受けた方々でも繰り返し観る度に初見ほどの衝撃は無くなっていくであろう構築度で、本物の映画だけが持つ奇跡は起こってないと思います(かなりエラそーだけど二千円払ったし、千五百円のパンフ買ったし、往復五時間かかったし、何より私個人のレビュー書くアプリって事で許して下さいね)。

まず今作特筆すべき素晴らしいお芝居をされているのは瑛太さんと豊原功補さん!
これはまず言っておかないと!です。

他にも良いお芝居をされている方もいらっしゃる反面(田中麗奈さんは判断に困る。ありゃ下手ウマになるのかな?コムアイさんも微妙な演技に見えた。どーでもいい事だけどなんか小雪さんに似てた)、特に終盤、瑛太さん豊原さん以外の役者さん達の喧々諤々からの大○戮のお芝居は(モブのカタチだけのお芝居も含めて)、みんな突っ立ち芝居が多く、首から上だけの意識(台詞での説明・やり取りが多いから?)でお芝居してる方達が多過ぎる気がして真の緊迫感や極限状況の切迫感が全然伝わって来ず、確かに事象としてはかなり凄惨でセンセーショナルな事が為されているのでパッと見凄絶に見えるけれど、それが役者陣の熱演・編集やカメラワーク・音楽等の映画的技術で何倍にも増幅されて映し出されている訳ではない!と思ってしまいました。

あと、女・子供があんな事になってしまう現場・状況を想像した場合、劇中で映し出されていた人々程度の言動・感情の表出で済むのでしょうか?
実際に手を下す各人のお芝居、それを目撃する人々のリアクション芝居もみんな一辺倒でワンパターンだったし(これは各演者・演出家の想像力の欠如だと思う)、スクリーンに映る「どうだ?地獄絵図だろ?」と言わんばかりの惨状と当事者達の一挙手一投足が私の想像する脳内の凄惨な状況を全然超えてこなくて、なんか間の抜けた物足りない画ばかりに映り、画面から溢れ出る狂気!を感じとれなかったなぁ…。

この辺りのたたみ込み方は好き嫌いは別として、絶頂期の園子温とかだったらメチャメチャ上手く演出しただろうな?と思ってしまいました(大ッッッキライだけど!)。

あと、なんか全編通して劇伴が合ってない気がするというか…、なんか古くさい?安っぽい?というか…(狙ってやってるの?)。

終盤、あの瞬間からかかる劇伴は素晴らしかったと思います。
でも、「の割に」曲のポテンシャルほど鳥肌立ったり、映画的興奮を受けないのはやっぱり編集とかカメラワーク、演技陣の説得力の無さの問題なのかな…?
鈴木慶一さんは北野作品ではいつもお見事なお仕事をされていたので少し消化不良でした。

安っぽいと言えばやっぱり今作、全般的に役者陣のお芝居がどうもテレビドラマ演技っぽく見えてしまう中(主要な役の方々というより脇役陣。例えば後の悲劇を計算した上での今この瞬間幸せなんですよと過剰に説明してくるような演技をする面々やあの飴売りの娘さん等)、
理想に燃える女性記者役をされていた方(名前わからない)の演技レベルがどーにも気になってしまいました。なんでこの方がキャスティングされた?
個人的にどーも不可解なんですけど、あの役って本作においては結構キーになる重要な役で(あの役自体が無きゃないで作品的にもっとスッキリする側面もあると思うけど)かなりの演技レベルを要求される筈で、キャスティングの際当て書きや指名が全然あり得る役だと思います。もしオーディションでの配役であれば役を勝ち取った演技レベルは絶対にこちらに伝わってくる筈です。
それなのに…。
何か大人の事情臭がプンプンするんですがこれは私の勘繰り過ぎでしょうか?

あと、台詞にちょっと作為性というか、劇中の人物としての言葉じゃなく脚本家の言葉として聞こえてしまう時が結構あった気がしました。

最後に…、やっぱり今作は本年度の「映画芸術」のベスト作品に選出されるのでしょうか?

【加筆】

2023.11.22に本作の監督森達也さんによる映画に関する記事を読みました。

記事によると森達也さんの古今東西のワースト映画作品は「タイタニック」らしい。

映画の好みは人それぞれで、まー自由なので別にイイっちゃイイんだけど…、
いくらなんでも…、反感反論覚悟で敢えて書くけど…、それは無くない?なんか変な尖った穿ったバイアスかけ過ぎじゃない?
「福田村事件」評にはなんの関連もないけど書かずにはいられなかったわ。
そんな事言ってっからこんな表面的にはセンセーショナルに見える凡作創っちゃうんだわ。