Shingo

福田村事件のShingoのレビュー・感想・評価

福田村事件(2023年製作の映画)
2.9
題材が気になっていたのと、オウム真理教を扱ったドキュメンタリー映画「A」の監督ということで観たのだが、正直全然良くなかった。

完全に私の持論なのだが、実際にあった出来事を扱っていることを明示して描く史実映画であれば、脚色は最小限にし、事実を誠実に描く姿勢を見せるべきだと考えている。そうでないと、どこまでが脚色なのか?本当にこういう行為が行われたのか?と、事実まであやふやになってしまうからだ。
この映画は、実際にあったかわからないような性や不倫の描写に比重を置きすぎだし、逆に当時の人々の朝鮮・中国人や社会主義者に対する態度や、権威主義的な考え方については、とりあえずセリフとして言わせているだけという感じがあって描写が浅い。どこまで時代考証なり、事件の検証を行なったのかとても気になる。福田村事件を忘れてはいけない事実として誠実に表現したいからこの映画を撮ったというよりは、反体制や性愛についての監督のメッセージを伝えるために福田村事件を手段として扱った感じがあり、嫌悪感を抱いた。そういう映画を撮りたいのなら、「福田村事件」というタイトルで実際の出来事を誠実に表現している風を装うのではなく、"based on a true story"くらいに留めておけば良い。
終盤の虐殺シーンも、事件の凄惨さを伝えようとしようとしているというよりは、キャッチーさを求め、煽るようなBGMの中で、B 級スプラッター映画と時代劇の殺陣のあいのこのような描写が繰り広げられている感じで残念。
また、日本のメジャー映画にありがちな「映画の演技します」という感じでリアル感のない会話劇や動きも、エンタメ映画であればいいのだが、ノンフィクション映画として見るとむず痒さを感じる。

長々と批判的に書いてしまったが、過度な期待をせずに観れば、土日の夜にやってるドラマって感じの作品であり、言い換えると多くの人にとっては観やすい映画なのかもしれない。少なくとも、福田村事件という凄惨な歴史が日本にもあるという事実を広めた功績はあるかも。
日本人が朝鮮人と間違われて殺されてしまったという「日本人による日本人のための映画」である本作を皮切りにして、関東大震災の中国・朝鮮の人々に対する行為自体を描いた作品など、より広い視野で日本の過去を内省できる映画がもっと出てくると良いなと思った。
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