みきてー

福田村事件のみきてーのレビュー・感想・評価

福田村事件(2023年製作の映画)
3.9
関東大震災の著書上梓を控えている森まゆみ先生とお話する機会があり、色々と懐疑的な意見をお聞きしたので「過去の森監督作のように、撮影主体に感情移入しすぎると裏切られるタイプの映画かな」と思って臨んだが……見事に翻弄されてしまった。

蛮行の種は日々ソフト/クワイエットに個人間でまき散らされている。悪意は噴出する機会を常に狙っている。だからこそ感化されがちなその芽を全力で握りつぶすことが必要であって、様々な脚色が上手くいっていないにせよ、この作品が確実たる一助になっていることは確かである。

そして演出の(劇映画として)拙い手つきが、虐殺シーンのリアルさを欠いており、そこだけが救い……

行商団はこれから生まれてくる子供の名前を話し合う。漢字が同じで違う読み方の「望」は、見た目が同じで違う民族の日本人/朝鮮人のアナロジーとして観客に刺さる。一瞬民族の差を越えて重なり合った象徴のはずの韓国扇子が、虐殺の引き金になるとは残酷すぎて恐れ入った。そこで瑛太が叫ぶ「じゃあ朝鮮人なら殺していいのかよ!」という台詞がこの作品の一番の主題でもあると思う。

田中麗奈のブリブリ演技は堂に入ったものである。一人だけ大林映画から抜け出てきたような異物感をまとう。彼女は疑心暗鬼にかられた住民から「鮮人じゃないか」と嫌疑をかけられる。集落の中で浮いている彼女が排除されるときに「他国民族である」というのが理由になるのは本当に恐ろしい。SNSで散見するネトウヨの意見を見ると、日本の鎖国体質は全く変わらず今もそこかしこに横たわっているように思う。「このような悲劇を繰り返してはいけない」つーか、現在進行形で繰り返され続けている。

「どこにいくの?」
「教えてくれないか」
という噛み合わない台詞の応酬と、静かな水面が痛々しい余韻を残す作品だった。
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