樺太柳葉魚

正欲の樺太柳葉魚のレビュー・感想・評価

正欲(2023年製作の映画)
4.0
この世には変わった性癖を持つ者は大勢いるので、水フェチだからって地球外から来た生物のような孤独感、疎外感を感じるのは大袈裟では?と思ってしまった。確かに「異性より水が好き」と言ったら「なんじゃそりゃ?!」ってなるでしょう。公言できない。親や同僚に結婚しない理由を聞かれて「水以外とは結婚できない」と言ったら、怒られるか、馬鹿にされるか、嘲笑されるか。嫌な思いをするのは確実。でも人間の最終的な幸福が結婚であると暗に仄めかすような話は好きではない。結婚できないから不幸、みたいな空気になってる。佐々木と桐生は形だけ夫婦を装い、それで満足してるけど、それって世間体を気にする必要が無くなったから?親からも同僚からも変な目で見られなくなったから?なんか違うんじゃない?どうしても割りきれない。彼らの不幸の根源がどれだけ水を愛しても水は愛してくれない、想いが届かない、永遠の片思い、とかならまだ理解できるんだけど。いや、まあ、それもどうかと思うけどさ。でもネットで同好の士を探したら居たわけだし。ただ、「水が好き」と「水に濡れた服が好き」の間には深い亀裂があると思う。めちゃくちゃ怪しい。この差異に気付かぬとは愚か者め。何者だ私。とにかくフェチ系の本を読むと多種多様の性癖があり、それぞれ楽しんで生きているから、なんとなく佐々木達の苦悩が解らなかった。それに対して寺井は分かり易い。普通の人。ご飯を食べようとする度に息子に邪魔されてる。奥さんは専業主婦で自宅に居る時間が長いのに、掃除もろくにしていない。口に出しては言わないけど、俺は外で働いてるんだから、家の事はお前がちゃんとやれ、と思ってるんだろう。ワンオペ育児の辛さが理解できない、そこらにゴロゴロいる男。引きこもりの息子と二人っきりで鬱々とした毎日を送っていたであろう奥さんからしたら、きっかけはどうであれ、息子が世間に向かって発信するようになったっていうのは有り難い。嬉しいよね。奥さん自身もきっと世界と切り離され、孤立感を味わっていただろうから、また世界と繋がれて喜びに満ち溢れたんだろう。それが理解できない夫。彼に水フェチという特殊な性癖は理解できないだろう。でも佐々木と桐生の間には深い絆が生まれ、水以外でも愛せるじゃん?性欲が湧かないだけじゃん?繋がれる相手がいるなら良いじゃん?とか思ったけど、他人に言えないフェチを持ってないから、そんな簡単に言えるんだ!ってなるのかな?相互理解は難しい。でも「水に濡れた服が好き」は絶対に水フェチじゃない。怪しんでれば事件に巻き込まれなかったのに。私は最初っから、こいつは違う!って思ったぜ!
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