くまたによしみつ

正欲のくまたによしみつのレビュー・感想・評価

正欲(2023年製作の映画)
4.6
いわゆるマジョリティ側の人たちが都合よく使う「多様性」という言葉の欺瞞性や危うさを見事にシニカルに風刺した作品なのは間違いない。「分類」することの難しさ、危険性を描いたという意味では、現在放送中のドラマ「不適切にも程がある」で描かれている現代社会が抱えた問題とも重なる点は多く見られたと思う。
簡単に言ってしまうと、「明日頑張ろう」と思えるものが何であれ、その人にとっては、意味のあるもので、それを他人が否定していいわけではないということに辿り着くのだけれど、何らかの枠にはめたりすることで、大雑把な結論めいたものを提示しなければ前に進めない側面があるのも事実ではあるが、そこで削ぎ落とされてしまっているもの、そういうマイノリティ側へ耳を傾けるということは、とても大事なことなのではないかということをあらためて突きつける作品でもあるのは間違いない。
「あの人は変わった人」という一言で片付けられることは、よくあるとしてもそれは、ほとんどの場合、いい意味で使われることはなく、「変人だから関わらない方がいい」という差別意識に基づく言葉だったりする。
またこういった差別がいかに世の中に溢れていて隠そうとされているのか、それによってどれだけ傷つく人がいるのか。
そんなものは、正しい側に立ちたいという承認欲求が根底にあって、正論による暴力には、見せないようにしている暴力で溢れているような気がしてならない。
実際のところ本当に正しいものなんて一体どれだけあるのだろうかと思ってしまう。
そんなことを日々感じることが多い人たちにとっては、この作品は、少し救いになるかもしれない。

そしてこうして要約した感想を書くこと自体が「切り取り化」しているのも事実であり、本当に伝えたいことをうまく伝えることは、この程度の文字数では誤解を生むことになってしまうということも本作で語られていることだとは思ったりもする。