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正欲のseckeyのレビュー・感想・評価

正欲(2023年製作の映画)
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偽って生きられたらどんなに良いか。
誰にも、もちろん自分自身にも。
何事もないように隠し通せたら、割り切って過ごせたら、気づかないふりをし続けていられたら。
どんなに合理的で良いだろうか。
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私は違う、と声を上げなくても生きられる。
他者との繋がり、社会との繋がり、心と脳の繋がり、全部無視出来ればいいのに。
でもどうしても消えない、分かってくれる存在を求める気持ち。”ここにいていいんだ”と感じられる温もり。
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息を潜めるようにして生きるのはとても寂しくて苦しいから。私たち人間は、生きている限り希望を持ってしまう生き物だから。
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恋愛感情から始まらなくても愛に仕上がっていく過程、その事実が素晴らしくて希望に溢れたラストシーンだった。
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一人では寂しいから、一人では怖いから、一人では生きていける自信がないから。意地悪な言い方をすればお互いを利用し合っている理由かもしれない。でもそこから始まった関係が、空気が、密に変わっていく奇跡が描かれている。
淡々と、徐々に。
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“こんな居場所がずっと欲しかったんだよね、ずっと怖い思いして探してたのに見つからないし、もうどうでもいいから世界が滅んでしまえばいいと思ってたのにね、やっぱり人生まだまだ終われないよね”
と、桐生さんと佐々木くんと自分を重ねて泣きそうになった。
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人間は本当に逞しいなぁ。その逞しさが可笑しくて、どんどん愛おしくなってくるなぁ。
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