2K版Blu-ray画質があまりに美しいことも関係するのかもしれないが、サイレントで撮られた商店街で規則正しく連なる果物屋や古着屋らを行き交う人々をスタンダードサイズで切り取っていく画面の連なりは、アンリ・カルティエ・ブレッソンが『逃げ去る瞬間（原題）』で写真に映し出したような、日常の光景の中にフッと決定的な一瞬が紛れ込む奇跡を想起させる。縦長の商店街に並ぶ数多の店をジェイコブスはこの最初期の段階からズタズタに分割し、それぞれがどのような位置関係に建てられているか観客は把握ができない（堀禎一『天竜区』シリーズはこの手法を拡張している？）。凡庸な監督ならばそれぞれの立地を正確に提示していくように試みるところで、ジェイコブスは全てはバラバラなものとして最初に提示し、それぞれの店の商品とそこへ来る客の反応（商品を見極め、代金を支払う）の関係から、単純極まりない原始的な金とモノの交換により、このアメリカの商店街を取り巻く暮らしが成立しているのを見せると同時に、そこでは路上でカップルがキスをしていたりもするように、この商店街は若者たちのデートスポットのような側面としての空間でもあることを競り上げていく（終盤で表示されるテロップでこのカップルをはじめ、商店街の人々となされた会話の一旦が伝えられるが、これがなんともチャーミング！）。その後、カメラは店の前の路上を含めて映し出すようになり、そこでは高級車の後ろにゴミ収集車も連なっていく様子があらゆる角度から撮られたもので提示されつつ、それらは基本的にはワンカットの中で高貴なものとゴミの連なりが映される。そしてそのゴミたちを見つけて、店の前の路上で走り回る子供達へと見事な視線誘導によってモンタージュが実行されるのだが、この中盤のあたりからカメラが被写体に合わせたローアングルでの撮影を多く採用していることに気が付き、印象的に感じられて来る。一つ一つの店から、店の前の路上へと移行してきたカメラは、路を挟んで反対側にも並ぶ店たちへと切り取る空間を的確に拡げつつ、当然ジェイコブスはそうしたローアングルでの撮影に留まるようなことはせず、いよいよクライマックスへと近づくとカメラは突如として高台に設置され、この商店街全域を俯瞰のパンによって商店街を行き交う人々や乗り物の交通を群としてひとまとまりにしてみせる。
大衆の国としてのアメリカの生活を、原始的な紙幣とモノの交換と、高級車とゴミ収集車が行き交う近代化、そしてそこにフラッと立ち寄る周辺のカップルや、遊び場として認識している子供たちという多角的な視点で30分に満たない時間で構成していく手腕は、初期作といえどジェイコブスの巨大な才能を存分に感じさせてくれる。

2025.1.7鑑賞。