膨大な数のジェイコブスの全作を追うことは最早できないが、これは別格。市民と路地を撮影したフッテージを用いながら、序盤はそれらが無音の中で無作為にモンタージュ/デクパージュされていくのを眺めておきながら、中盤以降時折沈黙を打ち破るかのように音楽（それもミュージカル調のものからラジオ音声のようなノイズまで様々）がかかり出し、それまで無作為に選ばれていた市民たちの顔や身体の動きの輪郭をハッキリと認識できるようになる。台詞こそないもののシチュエーションとそこでの人物配置からクレショフ効果によりそれぞれの視線や導線の物語を紡ぎ出す。あらゆる素材をズタズタに解体して再構成してしまうジェイコブスの編集能力は言うまでもないが、この映画で驚かされるのは撮影段階でジェイコブスが人や乗り物、自然物にいたるまで様々な運動の連絡を見事に射抜いていることで、ドラマの内容などではなく、映画に内蔵された原始的な活劇が堪能できる。同じく60年代に映画制作を開始したファロッキが、政治的な主題に取り組みつつ、その後エッセイ映画と呼ばれるような語りを身につけていくのだとしたら、ジェイコブスは60年代のこの段階で極めてエッセイ的な撮影方とモンタージュ/デクパージュをかなり高次元な段階で実践しており、驚嘆した。

わからん