【力の支配から逃れる穴の奇跡】【東京国際映画祭】
■あらすじ
戦火のシリア、ダマスカス。爆撃で屋根に大きな穴が開いてしまい、そこに住み続けるか移住するかに悩む家族を14歳の少女の視点から描いた作品。ヴェネチア映画祭オリゾンティ・エキストラで上映され、観客賞を受賞。
■みどころ
シリア紛争の渦中にあるダマスカスで難民にならずに残る家族と、爆撃によって家に穴が空いた事で事態が急変するお話。
難民になって路頭に迷うこと、家に愛着を持っていて頑なに戦場から出ようとしない父親の護る優しさのあまり家父長制の支配で抑圧されるという当事者からすればしんどみ強い作品だと思う。
戦争の力で抑圧するマクロなものが父親の護る故のピリピリしたミクロなものに縮小し、家という存在を牢獄のような狭いものとして描く作品で、抑圧からの巨大な穴がもたらす自由・自立への獲得のカタルシスが良かったです。
印象的なのは石を空に投げて水の反射音に変わる地続きなカメラワークで、水の枯渇した環境下を如実に反映するのが良かったです。その他にも家父長制の象徴である父親が穴を埋めるためにとんかちでシートを張る姿もとんかちの音が暴力性に直結して、本質的には爆撃による武力と重ね合わせる姿に昇華しているのも面白かった。
結局、シートで穴を完全に防ぎ切る事は出来ずに隙間が発生するが、そこにある自由や自立への可能性が残されているよと教えてくれる部分も含めて穴が開く事へのコンテキストの豊かさは魅力的でした。
とはいえ、個人的にはシリア紛争という戦争の驚異が中盤以降は危機にあまり貢献していなくて戦争の脅威が矮小化したのが緊迫感に欠けていたり、引用されるBGMが単純にミスマッチなのもあって思ったよりハマらなかった作品でした。
あとは家父長制のテーマとしてはあまりにもベタで「結局そうなるんかい!」で終わるのもあって、水の演出やドローンの引用という面白いアイテム使ってる中でそこはもう一捻り欲しかったかな。