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理想郷のプライのレビュー・感想・評価

理想郷(2022年製作の映画)
4.5
フランスからスペインの村に移住してきた夫婦と、生まれた時から村に住み続けている兄弟が、互いの考える村の理想像を掲げて対立するスリラー・ドラマ。

先住者から過干渉や嫌がらせを受ける移住者。よそ者こと移住者を自分たちのカラーに染めようとする先住者。そんな人々を描き、「おら、こんな所いやだ〜」となる閉鎖的コミュニティの恐ろしさを伝える"村"作品が生まれてきた。そして、ここに"村"作品の新たな良作が誕生した。

住み続けたい願望を強く抱える夫婦。よそ者の夫婦を追い出すべく、巧妙かつ悪質な嫌がらせを連打する兄弟。夫婦と兄弟が交わすやり取りを平坦なカメラワークで捉えるからこそ、対立構造が生々しく映る。何よりも生々しいのは兄弟が実行する嫌がらせのシーンだ。基本的に劇伴が流れない本作だが、兄弟が牙を剥く時は別。不穏な音色をリズミカルに刻む劇伴が流れ、夫婦が察知する嫌な感が観る者と同化する。そして、発動する嫌がらせ。手口の1つ1つに悪知恵が効いており、警察が真面目な捜査に踏み込まないギリギリのラインを攻めている。その様相を見て、切実な思いを募らせていく夫婦の感情を観る者は肌身で感じ取ってしまう。特に最後の嫌がらせ(もはや嫌がらせのレベルではない)は生々しさMAX。グロくはないが、「俳優さん大丈夫?…」と息を呑むレベルでむごい…。

さて、本作では大きなストロング・ポイントが2つある。それは、対立の要因と村社会へのアンサーである。

まず、対立の要因。村社会を題材にした作品および現実の村社会の場合、大抵は「移住者=正義、先住者=悪」の構図がベーシックだった。だが、本作は移住者である夫婦と先住者である兄弟それぞれに筋の通った正義がある。むしろ村全体の利益を考えれば、嫌がらせを働く兄弟の正義が合理的であるとさえ思えてくる。逆に、夫婦の正義が身勝手に見えたりもする。とはいえ、どちらが真の正義かジャッジすることに意味はない。対立を深めたり、相手を攻撃して解決を図ったり行為そのものが悪なのであり、正義云々を語る前に戒めるべき行為である。

村社会に対するアンサーが良い。村社会を題材にした作品だと「こんな村いやだ〜」と吉幾三さんになって終わったり、「村社会は怖いでしょ」と警告や皮肉を伝えたり、後ろ向きな締めをよく見る。同年公開の邦画『ヴィレッジ』においても村や閉鎖的コミュニティの怖さを伝える作品であり、自己防衛おじさんの如く「自分の身を守るならさ〜、村をあてにしちゃダメじゃない。村脱出だよね!」な締めであった。だが、本作は村社会におけるベスト・アンサーを最後に残している。先住者および移住者という看板を捨て去り、1人の人間として接していくことを説いている。これは至極、真っ当なことであり、意外と盲点だったような気がする。村内で誰もが仲良くする光景は、それこそ絵に描いた理想郷である。だが、村社会は恐ろしいコミュニティとして斜に構えるのではなく、まずは自分も相手も1人の人間として向き合うのは大切なことであり、いつしか誰もが忘れ去ってしまったことだと思う。それを思い出させ、村社会という閉鎖的コミュニティから希望を見い出すことは良きアプローチ。

惜しい点としては、平坦なカメラワークで撮影したワンカットやワンシーンが長いこと。生々しさが映る反面、リズムの悪さがある。なかなか話が進んでくれない。そのおかげで上映時間が長く感じる。どのカットも数秒ほど削った方が幾分か見やすくなったと思われる。


⭐評価
脚本・ストーリー:⭐⭐⭐⭐
演出・映像   :⭐⭐⭐⭐
登場人物・演技 :⭐⭐⭐⭐⭐
設定・世界観  :⭐⭐⭐⭐⭐
星の総数    :計18個
プライ

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