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梟ーフクロウーのRのネタバレレビュー・内容・結末

梟ーフクロウー(2022年製作の映画)
3.7

このレビューはネタバレを含みます

※予告では触れられていない部分にも触れています。

映画館で。

2024年の韓国の作品。

監督は長編デビューのアン・テジン。

あらすじ

盲目の天才鍼師ギョンス(リュ・ジュンヨル「金の亡者たち」)は病の弟を救うため宮廷で働いていたが、ある夜、王の殺害を目撃してしまったことで恐ろしくも悍ましい真実に直面する。追われる身となった彼は朝日が昇るまでという限られた時間の中で謎を暴くために奔走する!

YouTubeチャンネル「シネマンション」でお馴染み、映画大好き芸人あんこさんが個人チャンネルで紹介していて気になって鑑賞。

お話はあらすじの通り、スリラー形式でお話が進んでいくような感じではあるんだけど、そこに加わる3つの要素。

まずは、「時代設定」。舞台はなんと現代ではなく17世紀、朝鮮王朝時代。元々は1645年に記された「朝鮮王朝実録」という書物にて、次期王候補の世子(キム・ソンチョル「82年生まれ、キム・ジヨン」)という人物が実際に「怪死」した事実をモチーフとしている、すなわち半分史実を元にした、というかにフィクションとして膨らませた」内容となっているんだけど、これがまず新しい。後述する要素「主人公が盲目」という点に置いては特にスリラー、サスペンス作品の中でも多く取り扱われ、古くからはオードリー主演の名作「暗くなるまで待って」や近年でも「見えない目撃者」とか秀逸な作品もあったりしたんだけど、そのほとんどが現代を舞台立てにしていたとあって、これは新鮮だった。

確かに序盤こそは朝鮮王朝時代なんて、てんで興味がないのでなかなかとっつきにくい部分があったりしたんだけど、段々と世界観に入り込んでいくと世継ぎ争いの醜さや裏で暗躍する陰謀だったりと王朝のゴタゴタな感じは韓国映画の「オハコ」でもあるので、よりスリリングなテイストを増し一気に引き込まれていく。

また、視覚しょう害というハンディを抱えながら生きる上で、まだまだ抱える問題は多い社会だけど、それでもこの時代には「盲導犬」もいないし、バリアリーフや音声認識ソフトなんかももちろんない、文明の利器はなく、ほとんど「杖一本」と「視覚以外の感覚」を頼りに行動しなければならない上に灯火を消すと一気に明るさがなくなり空間が暗闇に包まれる「よるべなさ」があって、またそれも後述する要素と相まって物語に緊迫感を与えていてよかった。

で、その上で二つめの要素、主人公ギョンスが「盲目」という点。ギョンスは生まれつき盲目というハンディを抱える代わりに、天才的な鍼師としての才能を活かして、病を抱える弟の薬代を稼ぐために宮廷の内医院で御医(主治医みたいなポジション)の補佐として働くことになるんだけど、そこでも鍼師の腕を発揮して側室からはたまた王家にもその腕を認められるまでになっていく。

で、序盤ではやはり「盲目」の主人公にありがちな「音」演出が秀逸。内医院で待つように言われるとそこでは薬草をすり潰したり、刻んだり、薬液を絞る音だったり、他の人物の足音だったりを「視覚」が使えないギョンスの「聴覚」を通して丁寧に観客にも「聴こえさせる」演出がなされていて、こういう演出も丁寧に入れ込んでいるなぁという感じ。

で、その上で面白いのがこのギョンス、盲目は盲目でも「昼盲症」だということがわかってくるところ!要は明るいところでは全く見えない代わりに、暗闇では少しだけ「見える」ようになる(つまりタイトルの「梟」とはギョンス自身のことだとわかる秀逸なタイトル!!)んだけど、それによって宮廷の人たちに「実は見えているんじゃないのか?」と悟られそうになったり、逆に見えてないと思われているからこそギョンスが「目撃」してしまう光景があったりとギョンスの目線から直面する展開の一つ一つがスリリングなんだけど、特にやばかったのが予告でもあった世子が毒殺されてしまうシーン!!

御医イ・ヒョンイク(チェ・ムソン「野獣の血」)の補佐として運命の夜、元々病弱なことから意識不明となってしまった世子の鍼治療に宮廷に参上することになるんだけど、そこで普通に鍼治療しているはずが段々世子の様子がおかしい…。で、近くの灯りが風でフッと消えるとそこには血だらけの世子の姿が!!つまりはヒョンイクが世子毒殺の実行犯だということがここで明らかになるんだけど、その姿を目の当たりにして硬直してしまったギョンスを不審に思ったヒョンイクが真正面から👀とギョンスを見つめて、次の瞬間いきなり眼球ギリギリのところに向かって鍼を寸止め…!!いや、こえぇよ笑笑!!つか、その行為仮に見えてなくても普通だったら感覚であぶねっ!ってなるよ!と思いつつもそれでも「見えていない」フリをして平然を装うギョンスのシーンも含めてめちゃくちゃスリリングだった!!

で、そんな感じで世子毒殺の現場を目撃してしまったことで追われることになってしまったギョンスが「盲目」に戻ってしまう「夜明け」を迎える前に世子殺害の真実を暴くことができるのか??というタイムリミット要素も加わったサスペンス展開になっていくんだけど、観る前はてっきりギョンスが世子殺害の疑いをかけられて追われる流れの中で黒幕を暴く感じになるのかと思いきや、実際は確かに要所要所で毒殺の汚名はかけられそうになりつつも、世子の息子や世子嬪(チョ・ユンソ「不思議の国の数学者」)の協力があったりして孤立無援というわけではないし、黒幕を暴くという展開もその黒幕自体は早々にわかっちゃったりするのでミステリー的な感じは希薄。

ただ、その代わりに3つ目の要素、ギョンスの「鍼師」というスキルが際立ってくる後半。色々と危ない目に遭いながらも黒幕を暴くための「証拠」を手にすることに成功したギョンス。ただ、その証拠を立証するためには「左手で書いた筆跡」が必要ということになり、黒幕を鍼で右手だけ痺れさせて左手を使わせるようにするように仕向けるんだけど、そこではちゃんと「鍼」を使う意味があるだけじゃなく、シーンの後半ではまるで「必殺仕掛人」の藤枝梅安みたいな技までも披露していて面白かった!

あと、もちろんキャストも良かった。ギョンスを演じるのはリュ・ジョンヨル。俺自身全く知らない俳優さんだったんだけど、過去作調べたら、なるほど!「タクシー運転手」のあの好青年やってた人か〜!!今作では髭面で全くあん時と様相が異なるんだけど、それでも切長な目つきながら、それでいて人好きのする顔立ちと相まって病を抱える弟のためにせっせと手紙を書く姿は弟想いで感情移入できちゃうし、「梟」のように夜目を効かせて全てを「目撃」する眼差しの鋭さだったり、なんといっても終盤、それまで自分を「卑しい者」と卑下して「見ること」から背けていた自分を捨て「真実を白日の元に晒そう」と黒幕に立ち向かう姿はめちゃくちゃかっこよくてハマってた。

他にも出ました!韓国映画界きってのクセメンバイプレーヤー、ユ・ヘジン(「コンフィデンシャル:国際共助捜査」)のどこまでも「王」に執着するご乱心演技とか世子の息子役の子の演技もめちゃくちゃ達者で凄かった。

ただ、個人的には内医院でのギョンスの先輩マンシク役のパク・ミョンフン(「警官の血」)が良くて、どことなくお笑いコンビ「レインボー」のジャンボたかおにも似たギョロ目を生かしたコメディリリーフっぷりに大いに笑った。

そんな感じで見た目に反して意外にエンタメ要素が強い作品ではあるんだけど、ラストの顛末は「えぇ…そうなっちゃうの??」とバッドエンドにも近い非常にビターな後味を残す本作。ただ、それでも最後の最後には耄碌して敵も味方も何もわからなくなった黒幕に鍼を使ってトドメを刺し、死に際で何も見えなくなった黒幕に対して「何が見えますか?」と捨て台詞を吐くギョンスは完全に暗殺人のソレでカマされたなぁ!

いやぁ、というわけで長編デビューの監督作にしてはめちゃくちゃ面白いし、良くできた作品だった。埋もれてしまう前に是非劇場で!!
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