はたなか

ナイン・マンスのはたなかのレビュー・感想・評価

ナイン・マンス(1976年製作の映画)
3.8
メーサロシュ・マールタ監督作品初視聴。
上映されていることを知るまで、私はこの監督の名前を知らずにいた。
女性初としてベルリン国際映画祭金熊賞を受賞した監督であり、映画史においても非常に重要な監督。
この監督を知れたこのような機会に感謝したい。


作中通してユリとヤーノシュの顔がクローズアップされたカットが目立っている。
そのすべてのカットで、登場人物はどこか憂いている表情をしているように感じた。
このようなカットは、俳優の演技力が如実に出ると感じており、各俳優の見せる様々な表情は演技力の高さを際立たせている。
メーサロシュが意図していたのは、作為性や修飾を極限までそぎ落とした「真実」をテーマにしているようだ。
出産シーンに関してはモノリ・リリが実際に懐妊をしていたようで、出産も本当に行ったそうだ。
つわりで苦しんでいるシーンやこの出産シーンがそれを助長させ、一種のドキュメンタリーのような感覚を持つ。
作品の中では、光と影のコントラストを意識した構図が多く、この構図がとても美しく、退廃的な要素を引き出しているようにも感じた。


社会が持っていた「女性はこうあるべきだ」というイメージや男性優位な要素。
平成に生まれた私にはあまり馴染みがないものではあるが、これらの思想やイメージはまだ社会の中に残っているように感じる。
性差にとらわれず、他者や社会がこれを縛ることなく、1人の人間として各々が自分の考え方や生き方で人生を歩んでいく。
このような思想は今でこそ当たり前に思えるが、この映画が撮られた当時としては非常に斬新であり、非常に重要な問題提起だったのだろう。

この監督特集上映期間中に他作品もぜひ鑑賞したい。
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