Yoshishun

クリード 過去の逆襲のYoshishunのネタバレレビュー・内容・結末

クリード 過去の逆襲(2023年製作の映画)
3.5

このレビューはネタバレを含みます

アポロ・クリードの息子、アドニス・クリードを主人公とした『クリード』3作目。前作までトレーナーとして登場していたシルヴェスター・スタローンは大人の事情で降板、マイケル・B・ジョーダン自身が監督を兼任した異色作となっているが、シリーズの締め括りとしてはイマイチな出来ともいえる。

本作では、かつての兄貴分であり18年のムショ暮らしを終え出所してきたダミアンが好敵手として現れ、既に現役引退をしていたアポロは最後の試合に挑むという内容。ロッキーが当たり前のように登場しない歪な設定を呑み込むのに時間がかかるが、最後の試合の相手がプロでも何でもない、しかも刑務所に18年収監されていた男である。試合結果からしてもあっさりとした幕引きに若干戸惑いを覚える。

そもそも、ダミアンが歳上であり、最早現役で闘うには身分不相応な立場でありながら、夢に年齢は関係ないという強い意志を持っていることが重要となるはずなのに、中盤で明かされる安っぽい悪役の設定を課されたことで『ロッキー・ザ・ファイナル』のロッキーのような闘う意味が軽薄なものになっている。アポロに18年も黙っている母も中々だが、夢を諦めざるを得なかった者が再起のためにもう一度夢を追い掛けるというシリーズの精神から脱却を図ろうとしてどこかで観たことのある分かり易いドラマに成り下がってしまっている。文字通り再び負け犬へとなってしまったダミアンと、誰もいないリング上で家族と戯れる幸せなアポロが映し出されるラストはあまりに残酷すぎやしないだろうか。

とはいいつつも、本作から登場のジョナサン・メジャースの怪演は見事だ。『ロッキー5』ガンのように、優しき青年から徐々に勝利へと固執する異常者へと成り果て、それを表情から演じ分ける演技力だけでも本作を観る価値はある。ちゃんと体も仕上げてくるので、アポロとの最終決戦もだが、その前のチャベスとの一戦の迫力もちゃんとある。対するマイケル・B・ジョーダンは、やはり現役引退という設定上、試合シーンはラストだけだが、直前の特訓シークエンスはちゃんとシリーズらしさを残す。あのテーマは流れないものの、かつての宿敵ドラゴが協力する姿も『ロッキー3』でのアポロを彷彿とさせる。

ただやはりシリーズとして観ると、前提としてスタローンがほぼ関与していないこともあり、シリーズの精神からは外れた何とも言えない作品となっている。シリーズの権利を巡って争われている今、スタローンが関与する新たなロッキーのストーリーをもう一度拝みたいところではある。
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