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それでも私は生きていくのEyesworthのレビュー・感想・評価

それでも私は生きていく(2022年製作の映画)
4.5
【母、娘、女であること】

今やフランス映画界を代表する存在となったミア・ハンセン=ラブ監督の8作目となる監督自身の自伝的ヒューマンドラマ。主演はフランスを代表する女優レア=セドゥ。

〈あらすじ〉
シングルマザーのサンドラ(レア・セドゥ)は5年前に夫を亡くし、通訳の仕事をしながらパリの小さなアパルトメントで8歳の娘のリンと暮らしている。彼女の父・ゲオルグ(パスカル・グレゴリー)は哲学教師として多くの生徒たちから慕われてきた人物だが、今は神経変性疾患を患い、記憶と視力を徐々に失っていきつつあった。父には五年越しのパートナーがいるのだが、彼女自身の健康の理由で父をフルタイムで看護することができない。サンドラは度々、父の介護に赴くが、その度に父が衰えていく姿を目の当たりにすることになり、なんともいえぬ無力感に襲われてしまう。そんな中、サンドラは偶然、夫の友人だったクレマン(メルヴィル・プポー)に再会する。彼は南極調査の仕事が一段落しつい最近、パリに戻って来たばかりだと言う。楽しい再会はやがてロマンスへと発展していくが、クレマンには妻とまだ幼い息子がいた。父の病への悲しみと先の見えない恋の狭間で悩まされるサンドラは悶々とした感情を抱えながら"それでも生きていく"しかないことを決意する。

〈所感〉
そういえば初めて知った女優の名前はレア・セドゥだった。他の女優には無いミステリアスさ、ダークさ、空虚さ、憂鬱さを纏っている感じがして好きになった。以前のロングのレア・セドゥのイメージしか知らなかったので、ショートは新鮮でちょっと微妙かなぁと馴染まなかったが、見ているうちに年を経てもやはりレア・セドゥはあの頃のレア・セドゥで美人だなと思う。逆にそれくらいしか見所も無い気がしてしまう。ストーリー自体は淡々としていて際立って波が無く、よく見るタイプのフランス映画だと思うが、老いて記憶も失いつつある父親の介護という綺麗事ではない苦しさ、妻子持ちの彼氏とのなかなか前進しないロマンスと二重苦に悩まされるシングルマザーの心の機微を描いている現実的な作品で、主人公のサンドラに感情移入して悲哀を味わえる。レア・セドゥは憂鬱の表現が上手く、抑制的な性格のサンドラが時に感情を爆発させるシーンが印象的だ。サンドラのように父からは娘として、娘からは母として、恋人からは女として顔が変わり、求められる役割の違い故の苦しさは誰しも人生に付きまとう難題だが、それぞれのバランスをとって生きていくしかないのだろう。あと、彼氏のクレマンはめっちゃナイスガイなのだが、君への真実の愛を語るフランス人はあまり信用ならない。奥さんが可哀想だ。
この作品はなんとミア・ハンセン=ラブ監督自身の経験がもとになっている映画ということで驚き。道理でリアルなわけだ。そして、パリが舞台の作品は無条件に美しい。
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