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レディ加賀のプライのレビュー・感想・評価

レディ加賀(2023年製作の映画)
2.3
タップダンサーの夢を諦め、実家の加賀市に帰省して女将修行を始めた旅館の一人娘が、加賀温泉PRの為にタップダンスのイベントに取り組むコメディ・ドラマ。

決して面白いとは言えない。タップダンスと加賀市のPRしか印象に残らない。登場人物全員が最後まで何者か印象付けられないほど薄っぺらな人物像で片付けられ、物語が空虚の極み。とりあえず、「加賀市に行ってみたいな」と思えただけ拾い物。ただ、作品自体は2024年のワースト候補。

1番に言及したいのは、登場人物全員が薄っぺらいところ。誰1人にも愛着や共感が沸かない。そもそも、人物像に芯が通ってない。それ以前に俳優陣へ登場人物たちの人物像を教えたのかも怪しいレベル。各登場人物の性格も背景も全てセリフで語ることだけで完結してる。俳優たちによる演技で伝えることを全くしない。口先だけの人物像では、各シーンで思いを吐き出したり持論を語り出したりしても全く響かない。YouTubeのコメント欄の端っこで「人生とは、こう生きるべき」や「人間とは、こうあるべき」と現実世界で誰からも相手にされないくせにネットで得意げに語ってるユーザー並みに思いも通じないし、持論にも説得力を感じない。加えて、女将の心得的なものも全て感情論であり、リアルの女将さん方から「女将ナメとんのか!」と怒られそうである(笑)また、登場人物の背景も「実は、こうだったのよ」という具合で後出しジャンケンばかりであり、物が進む度に「脚本を完成させた後に後付けしたの?」と制作過程の推察を起こすレベル。これほど多くの薄弱な登場人物をいっぱい出すならば、主人公と一緒に女将修行をする人物を削り、なるべく多く主人公の人物像形成に費やした方が良かったと思う。

小芝風花さん演じる肝心の主人公も人物像が不明瞭。「タップダンサーを諦める」という踏ん切りもナレーションでサラッと片付けてられており、本当に辞める決心をしたのか伝わってこない。もはや、「タップダンサーを辞めた」というよりも「タップダンサーを辞めたっぽい」が正確。その後、女将修行に取り組もうとした理由さえも描かれない。もはや、「女将修行に取り組む」というよりも「女将修行に取り組むっぽい」が正確。なので、本作の主人公の物語をまとめると、「タップダンサーを辞めたっぽい人が、女将修行に取り組むっぽい」になり、芯が通ってない。終始一貫して、動機や行動原理が不明瞭な主人公だった。そのため、物語上での成長を実感しにくい。

劇中のタップダンス発表までの練習期間が短すぎると思う。約2週間で発表になるのだが、練習期間のわりには完成度が高すぎる。タップダンス初心者が約2週間で本作のように技術の取得はおろか、複数人で息の合ったパフォーマンスを出来るの?おそらく、俳優陣も全員がタップダンス経験者ではないのだから、2週間以上に練習を費やしたのでは?それなら少なくとも、劇中の練習期間も実際に要した練習期間に直して脚本を書き換えれば良かったのではないか?『夜が明けたら、一番に君に会いに行く』の文化祭のダンスの時も思ったけど、こういう「披露モノ」における練習期間の不一致は止めて欲しい。期間と不釣り合いなものを披露されても嘘臭さを与えるだけ。

唯一、本作の良かった点はエピローグがなく、劇中の絶頂期で締めてくれるところ。小芝風花さんのタップダンス姿もキレがあって良いけど、明らかに後半から同じ動きばかりでネタ切れ感が見受けられた。本作における拾い物は、加賀市の街並みが綺麗であり、ご当地名物らしき食べ物が美味しそうであり、加賀市に行ってみたいと思えたところ。あと、森崎ウィンさんが意外にも奇人変人キャラが結構イケてること。

雑賀監督の前作『レッドシューズ』で発生していた登場人物が不意に沸くというチグハグな演出は消滅しており、改善は見られる。だが、登場人物たちが他人の現在地を謎に把握して不意に登場するエスパー的な演出は健在である(笑)


⭐評価
脚本・ストーリー:⭐⭐
演出・映像   :⭐⭐⭐
登場人物・演技 :⭐⭐
設定・世界観  :⭐⭐
星の総数    :計9個
プライ

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