是枝作品は本当に、人間の陰と光の面を描くのが上手すぎる。"良い人"も"悪い人"もいない、光と陰は一個人の内面に共存し得る。本作品も天晴れ御見事な名作、私は一生是枝作品を絶賛して生きて行くのだろう。
思春期は心理的離乳の時期であり、親の保護下を出て、同年代の仲間と秘密を共有しながら自我を確立していく年代でもある。その時期に差し掛かった麦野母子における、母子間のすれ違いの描かれ方が凄まじい。お互いを想う心はあっても、こんなにも食い違いが現出する。
すれ違い、食い違いは、母子間だけに留まらない。映画の至る所で見られたように、この世の至る所で起きている。映画を観た私たちは何が真実なのかを真っ直ぐに知ることが出来たけれど、現実世界の私たちは映画のなかの一登場人物と同じ視点でしか物事を見ることが出来ない。何が事実で真実なのか、知る術が無い。そのことに言いようもない緩やかな絶望を感じた。
この映画を大雨の嵐の日の夜に観ることができて良かった。
以下、ネタバレ有。
"「生まれ変わったのかな」「そういうのはないよ、元のままだよ」"、このやり取りが好き過ぎる。生きていると、生まれ変わったのかもしれないと感じるような素敵な瞬間が訪れることもあるけれど、今も昔も自分のまま。この台詞に猛烈な坂本裕二節を感じた。
風呂場で星川くんが痣を作りながら溺れて(?)いる場面、千葉県野田市の小5女児虐待死事件をモデルにしているのかなと感じた。年齢と、シチュエーションが丸々一緒。あの事件では救いの手が差し伸べられずに女児は亡くなってしまったけれど、もしも救いがあったとすれば、映画のような結末もあったのかもしれないな、なんて、憶測に過ぎないがボンヤリと思った。
