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怪物のペインのレビュー・感想・評価

怪物(2023年製作の映画)
4.1
“実際どうだったかなんてどうでもいいんだよぉぉ~”by田中裕子

『空気人形』とはまた別ベクトルでの、是枝裕和カルト作爆誕。

奇しくも監督脚本の両者が大好きな相米の『台風クラブ』を全面展開させており、私の昨年のベストワン『秘密の森の、その向こう』を思わせるテイストも少々。

あまり良い意味ではなく話題になっていたクィア・パルム賞はさておいても、本作に脚本賞を与えるのはやはりカンヌお目が高いといった辺りか⬅️

坂元は脚本の着想のルーツとして「以前、車を運転して赤信号で待っていたら、トラックが止まっていて、信号が青になっても、しばらく動かない。プップーと、クラクションを鳴らしたところ、それでも動かない。ようやく動いたら横断歩道に車いすの方がいて。トラックの後ろにいた私は、それが見えなかった。クラクションを鳴らしてしまったことを後悔した」というエピソードを話していた。

たしかに生活をしていて、一面的にしか見えないことは多々あり、自分が被害者だと思うことは敏感だが、加害者だと気付くのには鈍感になってしまいがち。それを凡百の『羅城門』スタイル的三幕構成ものとは一線を画する見事な脚本で示してみせたと思う。

敢えて言えば、
前半部の校長室でのくだりで、安藤サクラに“私が話してるのは人間?”とか言わせたり、“こんな学校がいる先生(※正しくはこんな先生がいる学校)どうかしてるよ”みたいに言わせるところはちょっとわざと臭さの方が全面に出ていて少々しらけた辺り。

主演の安藤サクラは言うまでもなく、
瑛太の端正なルックスの底に見え隠れする異物感、どこか歪な佇まいの見事さだったり、『誰も知らない』の柳楽優弥や、『万引き家族』の城桧吏にも通ずる如何にも是枝監督好みな湊役の黒川想矢の原石感溢れるイノセントな存在感と目力にも終始強く惹き付けれた。

キャッチコピーにもある、“怪物だーれだ”的な怪物探しモノに見せかけておいて、実のところは“ハッキリとさせない”、“曖昧さをこそ描く”、映画的としか言い様のないものになっている。

正直、監督が是枝裕和でなければもっとテレビ屋の“消費”し易い作品になっていたはず。坂元裕二は確かな“ヒットメイカー”ではあるが、それ故の“危うさ”が常にある作家だと私は思っているが、しかし是枝監督とは見事なケミストリーを産み出していたと思う。
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