カニペンギン

怪物のカニペンギンのネタバレレビュー・内容・結末

怪物(2023年製作の映画)
3.9

このレビューはネタバレを含みます

星川くんの「ごめん、ウソ」のシーンが脳裏に焼き付いた……。
「思ってないことは言えないよ」という星川くんのその美徳を持たない者たちは(校長に代表される者たちは)、自分の嘘にまきとられやがて増水する川を(死を)見つめることになる。

「ごめん、ウソ」と、本当のことを言ったあとにどれだけの恐怖が待っているか、どれだけの恐怖を乗り越えての言葉か、それはこの現実で同性愛者が真実を言うことの恐怖そのものだろう。

校長が麦野くんに楽器を吹かせ、自分もホルンを吹きながら涙するシーン。そこで語られる彼女の言葉はたしかにこの作品全体を包み込むような力強くしなるメッセージだけど、金管楽器に口に出せない思いを吹き込めるのは、まるで口を塞ぐような姿でもある。
そのようにして長く生きてきた校長の人生があるだろう。そうさせてきた社会があるだろう。もう取り戻せない彼女の人生があって、だからこそ(「この校長がすれっからし過ぎるのが全ての原因では」という素朴な感想を持ちつつ)「誰もがなれるものを幸せというのよ」という言葉に意味が宿る。

星川くんと麦野くんは自分とお互いの心を守るための嘘だけをつく。だからこそ、自分の心を守るためにきっと死さえ覚悟しながら言う「ごめん、ウソ」という真実の翻しがとてつもなく勇壮なシーンとして輝いていた。
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