みさき

怪物のみさきのレビュー・感想・評価

怪物(2023年製作の映画)
4.2
是枝裕和×坂元裕二のタッグが発表された時点で絶対的おもしろさを確信し楽しみにしていたのに直前の監督の発言で一抹の不安を抱えながらの鑑賞になりましたが間違いないおもしろさでした。また鑑賞から2ヶ月経ってるけど。とにかく脚本がすごい。視点を変えれば見える景色が変わる系の映画はいろいろあるけど、それを伝えるために程度の差こそあれ誰視点かで意図的に演出を変えると思うんだよね、映画なんだから当たり前だけど。例えば『ミセス・ノイズィ』とか『最後の決闘裁判』とか。でもこの映画は視点が変わっても起きてる事実は変わってないと思う。例えば最初の母視点の保利先生はかなりヤバい奴だったけど、保利先生視点になってもヤバい奴には変わりなかった。なんて言うんだろ、演技自体を変えるのではなくてその人のバックグラウンドや違う面を見せることでこちらの受け取り方だけを変えてるのがさすがだなと思った、過剰な演出をしてないのが。最初の母親視点のパートを見てる時は校長室での学校側の対応に全力でイライラしたし校長ヤバいし、何となくこの後でこれが覆るんだろうなと思ってたから校長目線でも見てみたけどそれでも普通に校長ヤバいとしか思えなくて、この後どんだけ校長の同情すべき事情みたいなものを見せられたとしても絶対こいつを肯定できんくらいに思ってたからどうなるんだろうと思ったらやっぱり同じ場面では校長はヤバい奴のままで。でも他の面を見ることで捉え方は変わった、楽器のシーンとかね。校長のことは全然好きにはなれないけど、この人も何かを必死で守ってるんだなと思えた。人は見たいものしか見ないし、自分の大切な何かを守ることに必死であればなおさら、相手も必死で何かを守ろうとしていることになど気付けない。ただ、守られている子どもからしてみれば見て欲しいのは敵の怪物ではなく自分であり、子どもも必死に自分を守ろうとしている、男女二元論、異性愛前提の社会から。監督はこの作品はLGBTQに特化したものではないと言ったけど、たしかに言いたいことは分かるんだけど、マイノリティを描きながらその存在を不可視化すること、「ネタバレ」とされてしまうことにはずっとモヤってる。しかもあの結末だし。それでも是枝監督の撮る湊と依里の2人の世界はほんとに良くて、もちろん2人の演技が良いのは言うまでもなく、あの空気感のままで、幸せになる子どもたちをたくさん撮って欲しいと思った。
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