がちゃん

怪物のがちゃんのレビュー・感想・評価

怪物(2023年製作の映画)
3.5
カンヌ映画祭などで絶賛された、是枝裕和監督の社会派サスペンス(?)
(?)とつけたのは、私の中でどうもテーマ分けしにくい作品だからです。かといって、多くのテーマを持つわけでもない不思議な立ち位置にある作品です。

大きな湖に隣接する小学校に通う小学5年生の、麦野湊(みなと)。
シングルマザーの母、沙織と暮らしていたが、湊は時々傷を作って下校してきたり、靴を片方失くしたままだったりしたので、沙織は学校でイジメが行われているのではないかと考える。

何度も学校へ抗議に行くのだが、沙織がそこで見たのは、校長を筆頭とする教員たちの事なかれ主義。それから担任の保利の頼りなさだった。
そして、保利も息子に体罰を加えているのではないかという疑念が膨らみ始め・・・

この一本の大筋を、沙織、保利、子供の3者の視点で描いていき、それぞれ違った光景を観客に見せるという構成です。
芥川龍之介原作で黒澤明が監督した、『羅生門』(1950)と似た手法ですね。

大きく3幕に分かれる本作は、2幕目までは好調。ミステリー的な展開で、物語の中に潜むあらゆる「怪物」を観客は追っていく。
回収されるであろう伏線も巧みに引いているように感じる。

だが、3幕目で、物語を投げてしまった。
ミステリアスなサスペンス風展開から、ファンタジィへの展開が強引すぎた。
物語の結末を観客に委ねているのだろうが、説明しておくべきところは説明しておかないと、妙なモヤモヤが残ってしまう。

野球に例えるならば、ピンチの場面で投げる球のなくなったピッチャーが、相手と勝負せずに敬遠をしてしまったようで気が抜けてしまうのだ。

深いところには、LGBTQの問題や、モンスターペアレンツ、閉鎖的な学校の隠ぺい体質のようなものがうっすらと漂ってはいるが、描き足らないのではという感想になってしまう。
薄いから、物語が説教臭くなり、監督が本当に伝えたいものが伝わらないように感じる。

ラストシーンに希望を覚えることができる方には、いい作品を観たという感動があるのではないかな。
私はひねくれているのか、作為が目立ちすぎているように感じ、全面的に拍手というわけにはいかなかった。

森の中の秘密基地や、管楽器の音などに代表される印象的でセンスのあるメタファーをたくさん感じることができるだけに残念。

子役の二人はすこぶる好演。
安藤サクラ、田中裕子、永山瑛太と演者は、劇中ずっと上手いなあと唸ってしまう演技。
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