キャラデザと原素というパッとしない設定で食指が伸びづらいが、見てみれば上質なラブストーリーと美しすぎるアニメーションで期待以上のものを見せてくれる作品。
PIXARでほぼ初めてのラブストーリーかつ、PIXARイズムに則った監督個人の体験を抽出した作品で、クリエイターが乗りながら製作しているような空気感が漂うのも、欠点を補う一要素になっていると思う。今作の監督は『アーロと少年』を手掛けた韓国系アメリカ人で、移民2世のピーター・ソーン。
水、土、風、火が次々に移住して形成されたエレメントシティ。多種多様な種族のるつぼである都市はまさしくニューヨークであり、アジアンな文化を持っている火の種族はまさしく監督のルーツを思わせる。
火の種族の女の子エンバーは、移民2世として両親の苦労に気付きながら成長するが、父の望んだ生き方と自分自身の気持ちとのギャップに苦悩する。親の払った犠牲や、差別の痛みが分かるからこそ、重荷に感じてしまう。ピーター・ソーンの置かれた状況と、反対されていたアニメーターになる夢が乗っかったストーリーには重みとリアリティが与えられていてとても素晴らしかった。
そして、心からエンバーを思ってくれる水の種族のウェイド。上流階級で育ち、安定した役所に勤め、何かと有り難がられる水の種族。境遇の違うエンバーに分け隔てなく接し、鼻に掛けない優しさで寄り添ってくれる。彼の放つロマンチックな言動の数々にやられてしまう。普段はナヨナヨしてるが、彼女のためにならないことにはきちんと意見してくれて、いざというときには力もあるとかいう男気も備えている。しかも情に深いが故に泣き虫なところもあり、もはや可愛い。良い男過ぎない??
この2人のラブストーリーが良いです。キュンとします。分かり合えないように思える火の種族と水の種族。2人がついに触れ合い、蒸気が上がる表現が絶品。
ただ、あれだけ長く住んでいて「火と水は触れ合ったことがない」はさすがに嘘だろと思ったり、真実の愛が分かる線香と恋愛している匂いが分かる母親がさすがに超能力者過ぎるだろと思ったり、人種問題をチラつかせる割には父親の水種族への反感・逆差別には進展がなかったり、土・風の種族の事情はまるで描かれなかったり、植物が実る土種族にとって触れるだけで枝葉が焼き焦げる火の種族は加害性がありすぎるし「あっ、すみません」程度で済むことなのか?と考えてしまったりと気になるところはたくさんあったりする。
これらを差し引いてもアニメーション映画としての絶対的な質は高く、一見の価値がある作品だと思います。