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「生きる」大川小学校 津波裁判を闘った人たちのdendohのレビュー・感想・評価

4.5
エヴエヴからハシゴ。
ちょうど黒澤明の『生きる』がイギリスでリメイクするタイミングとのことで、タイトル被りで埋もれないか気になるところですが、こちらはノンフィクションの記録映画で、単館系を中心に公開されています。

宮城県石巻市の大川小学校、犠牲になった児童の御遺族が主役ですが、個人的に印象に残ったのは、教員で唯一生存した遠藤純二先生。彼が登場する説明会の場面では、説明途中で泣き崩れて抱きかかえられたり、遺族からの罵声に他の遺族が諫めたりという地獄絵図が、殆ど編集なしで流れます。映画前半ですが、観ていて一番キツいシーンでした。被災した直後なので、説明する側も憔悴しており、遺族達も怒りに満ち満ちていたのだろうと思いました。
しかしながら、実はその証言が自己中心的かつ偽証混じりで、彼はそれを理由に非難されます。しかし311当時に高台に逃げる主張したのは彼です。校長が遠藤先生のメールを消した等の事実を踏まえると、遠藤先生の偽証も、教育委員会や校長からの指示であったように感じます。生き延びてしまったが故に、亡くなった教員を含めた全ての業を背負ってしまったという意味で、遠藤先生には同情を禁じえませんでした。

事故そのものも問題なのですが、本故の最大の問題点は説明時の市、教育委員会、校長といった関係者の態度でした。特に酷いのは石巻市長の『宿命』発言でした(作中では描かれませんでしたが、市長は後に謝罪したそうです)。市や教育委員会、校長達が真っ当な説明をしていれば遺族は訴訟することはなかったとのことです。

また訴訟時に賠償金額設定をしないといけないという苦痛があることが明かされました。賠償金額とは、すなわち失われた子供達の命の金額です。しかし日本で国家賠償請求をするには、金額を決めないというのです。自分の子供の命の価値を決めなくてはならないなんて、なんて残酷なことでしょうか。しかもそれをやったが故に『金目的で国を訴えた』等と心無い非難を浴び、殺害予告までされたとのことです。映画を全部観たら、カネ目的では無いことはよく分かります。
他の国家賠償請求でも同じなんでしょうね。ニュースを見る目が変わりました!

最後に遺族のお母様が学校内の『人間関係』に焦点を当てたお話をされていました。確かに遠藤先生の主張が通らなかったのは人間関係の問題だったのかも知れません。しかしですね、、、人間関係なんてちょっとした理由で簡単に崩れるもの。そもそも真っ当なマニュアル整備や避難訓練の実施、校舎建設時に津波避難を想定した設計にするとか、ソフト面やハード面ともにやりようは色々あったはずです。人間関係なんてものが原因で生死を分けるなんてことは決してあってはならない筈です...

しかしまあ編集も最小限で、ここまで心に訴える映画が作れるのですね...。釜石市の対応は、多くの人々にとって、自身の職務の反面教師にも出来ると思います。本当に辛い映画ですが、得るものも沢山ありました。
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