TVシリーズのその後を描く完結編。
本作は何より、実直に人間ドラマを軸に描いている点が凄く良い。カナタ・イチカ・リュウモン、それぞれの進む道への迷いと乗り越えをしっかりTVシリーズのドラマを活かした上で描かれていて、物語に確かな芯が通っているのが分かる。
新キャラクターのディナスもじっくりと尺を使ってドラマが描かれており、新たなウルトラマン観を観客に提示していて見応えがあった。
本作では、ウルトラマンデッカーの力の起源について語られている。その出自はウルトラマンダイナが大元であり、ダイナからウルトラマンディナス、そしてカナタ=ウルトラマンデッカーへ光のバトンが繋がれていく様が描かれた。
「始まりのディナス」というキャッチコピーの意味がしっかりと回収されていたのも良かったし、私の最推しウルトラマンがダイナなので彼の兄弟のような系譜が繋がれていったのはダイナファンとして感慨深いものがあった。
特撮バトルパートの構成はかなり挑戦的。尺の3/4はディナスとガッツセレクトが敵と戦い、主人公のデッカーはクライマックスで力を取り戻して変身するというもの。これはドラマパートを第一に考えた大胆な構成で私としてはかなり好印象なのだが、メインターゲットである未就学児に主役であるデッカーが最後しか出てこない構成がどう映ったのか気になるところだ。
苦言を呈するとすれば、悪役のミスマッチさが強く感じられたところだ。
TVシリーズのメインの敵役たるスフィアはコミュニケーション不能な純粋なる人類の天敵で、時世的にコロナ禍の現実がオーバーラップする「時代を映す鏡」として秀逸な敵役だった。
それだけに今作の敵役たるギベルスのテンプレートな侵略者ムーブや傀儡の宇宙人のコミカルな描かれ方が、カナタたちのドラマパートに全然合っていないのがノイズになってしまった。
ただ、ギベルスが何故地球人を手に入れたいのかという動機は「スフィアに打ち勝った強い精神を持つ生命体だから」というのが『シン・ウルトラマン』の設定を彷彿とさせて個人的には嬉しいポイントだった。
TVシリーズからずっと重きを置いていた「若者の成長の物語」、その完全な結実を本作で描ききっていたと感じられたし、シリーズ全体ではニュージェネレーションダイナとしてこれ以上ない愛と挑戦のあるオマージュがひしひしと感じられたので、『ウルトラマンデッカー』という作品は私とって高水準で満足できるウルトラマン作品のひとつとなった。